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バリア性とコーティング 技術解説 | Troy Technical

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TECHNOLOGY EXPLAINER

バリア性とコーティング
― 「通さない」は材料の性質ではなく、条件つきの数字である

包装フィルムから電子材料まで、高分子には「気体や水蒸気をどれだけ通さないか」が求められます。 透過は「溶けて、広がり、反対側へ出る」という過程で、同じ膜でも温度・湿度・膜の穴の有無で数字が大きく動きます。 この記事では、透過の仕組み、測定規格、EVOH・PVDC・無機蒸着・多層フィルム、そしてコーティングと VOC 規制までを、素材技術者の目線で整理します。

構成:測定規格(ISO・ASTM・JIS)、査読論文、クラレ・旭化成の公表資料、EU 指令、環境省・米国 EPA の公開資料を一次情報として使用/最終更新 2026年10月

明るい試験室で、手袋の手が円形の透明フィルム試験片を測定セルにセットし、奥にはフィルムのロールと無地の透明パウチが並んでいる概念イメージ
概念図(AI生成イメージ)。「バリアフィルムが包装に使われ、その透過度を試験室で測る」場面を表現したものです。実在の製品・設備・層構成・厚さ・測定条件を示すものではありません。
この記事の構成
  1. バリア性とは何か(3行でつかむ)
  2. 透過の仕組み ― 溶解と拡散
  3. 測定規格 ― 同じ「透過度」でも、方式と条件が違う
  4. 素材技術者の視点①:数字は「条件」とセットで初めて意味を持つ
  5. バリアを担う材料 ― EVOH、PVDC、無機蒸着、多層フィルム
  6. 本稿の計算:EVOH 層を通って1年間に入る酸素の量
  7. 欠陥が透過を決める ― 無機薄膜のバリア
  8. 素材技術者の視点②:膜の性能は「材料」より「穴」で決まることがある
  9. コーティング ― 溶剤系・水系・UV硬化
  10. VOC 規制 ― 溶剤はどこへ行くのか
  11. 素材技術者の視点③:規制は材料選択の制約条件になる
  12. 課題と、本稿で確認できなかったこと
  13. 用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=規格団体・論文・企業・行政の公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・目標・見通しであり、実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。
物性値はメーカー公称値または論文値で、試験法・温度・湿度・膜厚の条件とセットで示します。グレードの異なる値を並べて優劣をつけることはしません。

1. バリア性とは何か(3行でつかむ)

  • 何を測るのか:フィルムやシートを、気体(酸素など)や水蒸気がどれだけの速さで通り抜けるかを「透過度」で表します。ISO 15105-2 は、フィルム・シート・ラミネート・共押出材・柔軟なプラスチックコート材などあらゆる形態のプラスチック材料のガス透過度の測定方法を定めています事実
  • どう通り抜けるのか:気体や水蒸気は、高分子の中を「まず表面に溶け込み、濃度の差で膜の中を広がり、反対側から出ていく」と整理するのが基本です(溶解・拡散モデル。本記事による解説)
  • 何が難しいのか:透過度は温度・湿度・膜の厚さ・膜の欠陥で大きく変わります。EVOH は湿度が上がると透過度が増し、無機薄膜は材料そのものより膜の穴で性能が決まることがあります事実(第5章・第7章)
この記事でいちばん大事な一行

「このフィルムの酸素透過度は〇〇」という数字だけでは、使える情報になりません。 EVOH の Zhang らの研究は、酸素・水蒸気とも透過度が温度と相対湿度で顕著に変わり、相対湿度が75%を超えると透過度が大きく増えると報告しています事実。 バリア性は材料の定数ではなく、使う環境と一緒に決まる性能です(本記事による解説)。

なお、ペロブスカイト太陽電池の封止に求められる水蒸気透過率の桁や、端部からの水の侵入については、本シリーズ「封止とバリア層」編(ペロブスカイト太陽電池)で詳しく扱っています。 本稿では重ねて説明せず、高分子材料としてのバリアの仕組み・材料・コーティングに絞ります。

2. 透過の仕組み ― 溶解と拡散

高分子膜を気体が透過する過程の概念図

ImageGenによる説明用の概念画像(実写・実測像ではありません)。正確な数値・名称・構造は元の模式図をご確認ください。

元の模式図(正確な注記・数値)を表示
高分子膜を通り抜ける過程(溶解・拡散モデルの概念図) 高圧側で膜に溶け込み、濃度の傾きに沿って膜の中を進み、低圧側で出ていく 高圧側 高分子の膜(厚さ L) 低圧側 ① 表面に溶け込む(溶解) ② 膜の中を広がる(拡散) ③ 反対側から出る 濃度(高) 濃度(低) 透過係数 P = 拡散係数 D × 溶解度係数 S ※ 定常状態で濃度が膜の中を直線的に変わると仮定した最も単純な場合の模式図です。実際の高分子では D が濃度に依存することがあります。
図1 概念図(ベクター作図)。溶解・拡散モデルはWijmans と Baker のレビュー[参考資料15]が扱う考え方の最も単純な場合です。粒子の数・配置は模式的なもので、実際の濃度分布や分子の大きさを示すものではありません。描き方は本記事によるものです。

Wijmans と Baker のレビュー(Journal of Membrane Science、1995年)は、膜を通る輸送を「各成分が膜に溶け込み、化学ポテンシャルの勾配に応じて拡散で通り抜ける」溶解・拡散モデルとして整理しています事実。 高分子フィルムの気体透過を考えるときの出発点は、この考え方です。ここから、素材技術者が使いやすい形にいくつかの読み取りができます(以下は本記事による解説です)。

  • 透過係数は「溶けやすさ」と「動きやすさ」の積:P = D × S。溶けにくい気体(S が小さい)か、動きにくい膜(D が小さい)なら透過は小さくなる
  • 厚さに反比例:同じ材料で膜の厚さを2倍にすれば、均質で定常な場合、透過する量は約1/2。ただし、欠陥のある膜や多層膜ではこの単純な関係から外れる
  • 温度で大きく変わる:ALD(原子層堆積)で作った厚さ25 nm の Al₂O₃ 膜を、カルシウム腐食試験(Ca テスト)で測った Carcia らの結果では、水蒸気透過率(WVTR)は 38 ℃で 1.7×10⁻⁵ g/m²/日、60 ℃で 6.5×10⁻⁵ g/m²/日、見かけの活性化エネルギーから 23 ℃では 6×10⁻⁶ g/m²/日 と推定されています事実。38 ℃から60 ℃への22 ℃の上昇で、約3.8倍です本稿の計算(6.5 ÷ 1.7 = 3.82)
  • 水そのものが膜を変える:親水性の高分子では、吸った水が膜の動きやすさを変えます。第5章の EVOH がその代表です
素材技術者の読みどころ:金属・セラミックスの「拡散」との違い

金属やセラミックスを扱う方には、P = D × S は固体中の拡散・固溶の式として馴染みがあるはずです。 高分子で違うのは、ガラス転移点(Tg)の上か下かで鎖の動きやすさが大きく変わることと、透過する物質(とくに水)が高分子を可塑化し、D そのものを変えてしまうことです(本記事による解説)。 Tg そのものは本シリーズ「ガラス転移点とクリープ」編で扱います。 後で見る EVOH の乾燥時のTg(クラレ公表値で50〜63 ℃)は、室温付近にあります事実。 つまり室温で使う EVOH は、Tg に近いところで水を吸いながら使われているわけで、湿度で性能が動くのは自然な結果です。

3. 測定規格 ― 同じ「透過度」でも、方式と条件が違う

透過度を測る規格は、何を(酸素か水蒸気か)、どう駆動して(圧力差か濃度差か)、何で検出するか(圧力センサ・クーロメトリ・赤外線・質量など)で分かれます。 本稿で番号と題名を規格団体の公式ページで確認できたものを整理します。規格本文は有料のため、適用範囲・方式の記載にとどめ、測定範囲や精度の数値は扱いません。

規格対象方式・検出公式ページでの記載
ISO 15105-2:2025ガス透過度等圧法フィルム・シート・ラミネート・共押出材・柔軟なプラスチックコート材など、あらゆるプラスチック材料に適用。第2版(2025年11月)で、2003年版を置き換え
ISO 15106-3:2003水蒸気透過度電解式検出センサ法プラスチックフィルム・シートおよびプラスチックを含む多層構造の水蒸気透過度を、電解式検出センサで求める機器測定法
ASTM D3985酸素透過度クーロメトリセンサフィルム・シート・ラミネート・共押出・プラスチックコート紙/布の酸素透過度を定常状態で求める。適用範囲の記載では、同規格の統計資料で測定の有効性が示された範囲は 0.063〜64.4 cc/(m²・日)
ASTM F1249水蒸気透過度変調式赤外線センサ厚さ3 mm 以下の単層・多層のポリマーや箔(コート材を含む)が対象。室間試験で有効性が示された範囲は 0.052〜26 g/(m²・日)。注記で「WVTR が厚さに反比例し水蒸気分圧差に比例する関係は常に成り立つとは限らない」として、透過率・透過係数の扱いに注意を促している
ASTM E96/E96M水蒸気透過質量法(乾燥剤法・水法)題名は「材料の水蒸気透過度の重量測定法」。紙・プラスチックフィルム・シート材・コーティング・発泡体・繊維板・石膏製品などを対象とし、試験条件は使用者の裁量で、必ず結果とともに報告するとされる
JIS K 7126-1:2006ガス透過度差圧法(附属書:圧力センサ法、ガスクロマトグラフ法)「プラスチック―フィルム及びシート―ガス透過度試験方法―第1部:差圧法」。ISO 15105-1:2002 を基礎とする
JIS K 7129:2008水蒸気透過度機器測定法(附属書A:感湿センサ法、附属書B:赤外線センサ法ほか)「プラスチック―フィルム及びシート―水蒸気透過度の求め方(機器測定法)」

すべて事実(ISO 15105-2[参考資料1]、ISO 15106-3[参考資料2]、ASTM D3985[参考資料3]、ASTM F1249[参考資料4]、ASTM E96/E96M[参考資料5]、JIS K 7126-1 の公開プレビュー[参考資料6]、JIS K 7129 の公開プレビュー[参考資料7])。規格団体の公式ページ・公開プレビューで確認できた題名と適用範囲の記載で、規格本文の内容(測定範囲・精度・条件の数値)は確認していません。

見落としやすい単位の話

クラレの EVAL™ の酸素透過度は 「cm³・20μm/m²・day・atm」という単位で示されます(同社ページでは m² の部分が「m³」と印字されていますが、面積あたりの透過度を表す量なので、本稿では m² と読んでいます)事実。 これは「厚さ20 µm の膜で、1 m²・1日・酸素の圧力差1 atm あたりに通る酸素の体積(cm³)」という意味です(本記事による解説)。 フィルムの厚さを含めた値なので、厚さが違えば換算が必要です。一方、規格の「透過度」(GTR や WVTR)はその試験片そのものの値、厚さを除いたものが「透過係数」です。 同じ「透過度」という言葉でも、試験片そのものの値なのか、厚さを揃えた値なのか、材料の定数としての値なのかを見分ける必要があります。

4. 素材技術者の視点①:数字は「条件」とセットで初めて意味を持つ

素材技術者の読みどころ:カタログの数字を読むときの5つの問い

バリア性の数字を比べるときは、次の5点を揃えないと、比較になりません(本記事による解説)。

  • 物質:酸素か水蒸気か。EVOH は酸素バリアを特長としつつ湿度で透過度が動くのに対し、後で見る PVDC は旭化成が酸素・水蒸気の両方に高いバリア性を持つと説明している、という違いがある
  • 温度と相対湿度:クラレの EVAL™ 表の酸素透過度は 20 ℃・65%RH、ISO 14663-2 附属書C の条件です事実。別の湿度の値とは並べられない
  • 厚さ:20 µm 換算か、実際の厚さか
  • 測定方式:差圧法・等圧法・質量法では、検出するものも試験片に与える条件も違う。ASTM E96 の適用範囲は「試験条件は使用者の裁量だが、結果とともに必ず報告する」としている事実
  • 試験片:単層か、多層か、コート面がどちらを向くか。多層・コート材は、同じ公称値でも履歴(折り曲げ、熱、水)で変わりうる

素材開発の現場では、自社の測定条件と顧客の使用条件がずれていることが、性能のばらつきとして現れます。 高分子の専門家でなくても、金属・セラミックスの「雰囲気と温度を揃える」という感覚は、そのまま使えます。

5. バリアを担う材料 ― EVOH、PVDC、無機蒸着、多層フィルム

Lange と Wyser のレビュー(Packaging Technology and Science、2003年)は、包装用プラスチックのバリア技術の革新を5つの方向に整理しています。 (a) 薄い透明な真空蒸着コーティング、(b) 離散的な層として使う新しいバリア高分子、(c) バリア高分子と汎用高分子のブレンド、(d) 有機バリアコーティング、(e) ナノコンポジットです事実。 同レビューは、既存のバリア解決策にはコスト・水への敏感さ・不透明さ・環境面の印象といったそれぞれの欠点があるとも述べています事実。 ここでは、そのうち実際の包装・電子材料でよく名前の挙がる材料を見ていきます。

(1) EVOH ― 酸素バリアの代表。ただし湿度に敏感

EVOH はエチレンとビニルアルコールの共重合体で、クラレの「EVAL™」が代表的な製品です。 同社は「酸素を含む気体の透過に対する優れたバリア性」を特長として示しています事実。 同社の標準グレードの公称値を、エチレン含有量の順に並べます。

グレード(メーカー公称)エチレン含有量融点ガラス転移点(乾燥)酸素透過度(20 ℃・65%RH)
L171B27 mol%190 ℃63 ℃0.1
F101B32 mol%183 ℃60 ℃0.3
H171B38 mol%172 ℃56 ℃0.7
E105B44 mol%165 ℃53 ℃1.9
G156B48 mol%157 ℃50 ℃3.7

すべて事実(クラレ EVAL™ 製品ページ[参考資料8]。メーカー公称値)。酸素透過度の単位は cm³・20μm/m²・day・atm(20 ℃×65%RH、ISO 14663-2 附属書C。同ページでは m² の部分が「m³」と印字)。ガラス転移点は「Dry」の条件。融点・Tg の測定法の記載は同ページに無く、本稿では確認していません。同一メーカーの標準グレードを同じ条件で並べ、エチレン含有量の影響を見るための表であり、製品の優劣を示すものではありません。

EVOH:エチレン含有量が増えると、酸素透過度が増える 酸素透過度(cm³・20μm/m²・day・atm)。クラレ EVAL™ 標準グレードの公称値、20 ℃・65%RH 0 1 2 3 4 0.1 0.3 0.7 1.9 3.7 27 mol% 32 mol% 38 mol% 44 mol% 48 mol% L171B F101B H171B E105B G156B ※ 20 ℃×65%RH、ISO 14663-2 附属書Cの条件でのメーカー公称値です。別の湿度では値が変わります(Zhang ら[参考資料9])。 ※ 27 mol% と 48 mol% の比は 3.7 ÷ 0.1 = 37 倍(本稿の計算)。製品の優劣を示す図ではありません。
図2 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。数値はクラレ EVAL™ 製品ページ[参考資料8]のメーカー公称値です。37倍という比は本記事が算出したもので、公表値ではありません。棒の高さは数値に比例させています。

この表から、エチレン含有量が27 mol% から48 mol% に増えると、酸素透過度が 0.1 から 3.7 に、約37倍になることが読み取れます本稿の計算(3.7 ÷ 0.1 = 37)。 エチレンの部分は疎水的で、ビニルアルコールの部分は水酸基どうしが水素結合を作りやすい、という分子構造の違いが背景にあると考えられます(本記事による解説。水素結合による説明そのものは、クラレのページには記載がなく、本稿の推論です)。 一方、融点とTgは、エチレン含有量が増えるほど下がる方向に並んでいます事実。 加工しやすくなる代わりに、酸素バリアが下がる——これがグレード選定のトレードオフです(本記事による解説)。

そして、この表は20 ℃・65%RH の1点の値です。 Zhang らの研究(Journal of Applied Polymer Science、2001年)は、EVOH フィルムの酸素・水蒸気の透過を温度と相対湿度の関数として調べ、低湿度では透過度が最小で、相対湿度75%を超えると透過度が大きく増えること、そしてエチレン含有量と延伸(配向)にも依存することを示しました事実。 著者らは低湿度での小ささを、水分子と高分子との強い相互作用による鎖の動きにくさに帰しています事実。

素材技術者の読みどころ:EVOH は「サンドイッチされて初めて使える」

EVOH を単独で外気に晒すと、湿度が高いところで性能が落ちます。 そのため EVOH は、防湿性の高いポリオレフィンなどで両側から挟んだ多層構造として使われるのが一般的です(本記事による解説。図3)。 つまり「バリア材料」の性能は、材料単体ではなく、層構成が作る湿度環境まで含めた設計の結果です。 金属材料の表面処理や被覆に例えれば、母材の弱点(水)を別の層で隔離して、強みを生かす考え方です。 層と層の接着には接着性樹脂が使われます。熱硬化性・熱可塑性の基礎は本シリーズ「熱可塑性と熱硬化性」編に譲ります。

(2) PVDC ― 酸素・水蒸気の両方を狙うコーティング用ポリマー

PVDC(ポリ塩化ビニリデン)は、二塩化ビニリデンの重合体で、1分子あたり2つの塩素原子を含み、気体や液体に対する優れたバリア性、耐薬品性、難燃性を備えると、Plastics Engineering(SPE)の解説記事は説明しています事実。 旭化成は、水性の PVDC エマルション(PVDC ラテックス)について、酸素などの気体と水蒸気に対して高いバリア性を持つ薄い膜を作り、ヒートシール性や高周波シール性にも優れるとしています。用途として、OPP(延伸ポリプロピレン)、PET、ナイロン、PVC のフィルムへのコーティングが挙げられています事実。

ここで注目したいのは、PVDC が「水に分散したラテックス」の形で供給され、フィルムに塗って使われているという点です(本記事による整理)。 バリア性の高い高分子は、結晶性や水素結合のために溶剤に溶けにくい傾向があり(解説)、塗布の形(溶剤・水・無溶剤)がコーティング技術の選択肢を決めます。第9章で扱います。 塩素を含む点は、焼却やリサイクルの場面で論点になりうる事項です(解説。本稿は具体的な数値や規制を一次情報で確認していません)。

(3) 無機蒸着・ALD ― 極薄の「ほぼ通さない膜」

酸化ケイ素や酸化アルミニウムなどの無機膜を、高分子フィルムの上に真空プロセスで薄く積む方法です。Lange と Wyser は薄い透明な真空蒸着コーティングを5つの方向のひとつに挙げています事実。

ALD(原子層堆積)で作った Al₂O₃ 膜の例では、Carcia らが厚さ25 nm の Al₂O₃ 膜をプラスチック上に形成し、Ca テストで WVTR を測定しました。結果は38 ℃で 1.7×10⁻⁵ g/m²/日で、ガラスの対照試料に非常に近い値でした事実。 ここで重要なのは、10⁻⁵ g/m²/日という水準は、第3章の ASTM F1249 が測定の有効性を示した範囲の下限(0.052 g/m²/日)より3桁以上小さいことです。0.052 ÷ 1.7×10⁻⁵ = 約3,100倍です本稿の計算。 この水準の透過を測るために、Carcia らはカルシウム膜が水と反応して変わる性質を使う Ca テストを用いています事実。

(4) 多層フィルム ― 層を組み合わせて、欠点を補う

共押出多層フィルムと蒸着フィルムの層構成の概念図

ImageGenによる説明用の概念画像(実写・実測像ではありません)。正確な数値・名称・構造は元の模式図をご確認ください。

元の模式図(正確な注記・数値)を表示
バリアフィルムの層構成の例(概念図) 左:バリア樹脂を挟む共押出多層 右:基材フィルムに無機層を重ねる蒸着フィルム 共押出多層(5層の例) 蒸着フィルム(例) ポリオレフィン 接着性樹脂 EVOH 接着性樹脂 ポリオレフィン 酸素を止める層 湿気から守る層 湿気から守る層 基材フィルム (PET など) アンカーコート 無機層(極薄) トップコート 無機層はきわめて薄い(例:25 nm) ※ 層の厚さ・順序は説明用の模式で、特定の製品の構造ではありません。無機層の厚さは Carcia らの25 nm の例を参考にしています。
図3 概念図(ベクター作図)。層構成の分類は Lange と Wyser のレビュー[参考資料12]の整理(真空蒸着コーティング、バリア層、有機コーティングなど)に沿い、無機層の厚さの目安は Carcia ら[参考資料14]の25 nm の例によります。各層の厚さ・順序は模式的なもので、実在の製品の構造ではありません。描き方は本記事によるものです。

図3の左側のように、バリア層を別の層で挟む構成は、共押出(複数の樹脂を同時に押し出して一体のフィルムにする)で作られます。右側のように、基材の上にコーティングと蒸着を重ねる構成はウェブ(長尺フィルム)を走らせながら加工します(本記事による解説)。 どちらも、単一の材料に全部を任せず、層ごとに役割を分ける点が共通です。この発想は、本シリーズ「ポリマーブレンドとフィラー」編のブレンド・複合材料や、「CFRPと複合材料」編の多相構造にも通じます。

6. 本稿の計算:EVOH 層を通って1年間に入る酸素の量

本稿の計算①:20 µm の EVOH 層だけを考えたとき、袋の中に入る酸素

前提(本稿が置いた仮定)本稿の計算

  • EVOH 層の厚さは20 µm。クラレ EVAL™ の公称値(20 ℃・65%RH)が1年間(365日)一定に続くと仮定する
  • 外側は空気(酸素の分圧 0.21 atm)、内側の酸素分圧は 0 atm と仮定する。バリア層の面積は 0.1 m²(袋の両面の合計)とする
  • 他の層(ポリオレフィンなど)と、シール部・折り曲げ部からの侵入は無視する
  • 空気 1 L 中の酸素を 0.21 L = 210 cm³ とする
グレード酸素透過度(公称)1年間に入る酸素1 L の空気中の酸素に対する割合
L171B(27 mol%)0.1約0.77 cm³約0.4%
F101B(32 mol%)0.3約2.3 cm³約1.1%
G156B(48 mol%)3.7約28 cm³約13.5%

計算式は「透過度 × 酸素分圧差 × 面積 × 日数」です(例:0.3 × 0.21 × 0.1 × 365 = 2.30 cm³)。 この計算は、EVOH 層の厚さを2倍にすれば入る酸素が約半分になる(均質で定常な場合)ことや、グレードの違いが桁で効くことの感覚をつかむためのものです。

前提と限界:実際には、湿度が75%を超える環境では透過度が大きく増えること(Zhang ら)、シール部・フィルムの折り目・ピンホールからの侵入、内容物からの水分移行などが加わります。 どれだけの酸素の侵入で内容物が劣化するかは用途ごとに異なり、本稿では許容量を示す一次情報を確認していません。数値は設計値ではありません。

7. 欠陥が透過を決める ― 無機薄膜のバリア

無機薄膜そのものは、気体をほとんど通しません。それでも、高分子フィルムの上に作った無機薄膜の透過度が「無機材料の物性から予想される値」よりはるかに大きくなることがあります。 その理由を定量的に示したのが、da Silva Sobrinho らの研究(Journal of Vacuum Science & Technology A、2000年)です。

無機薄膜の欠陥を通る透過の概念図

ImageGenによる説明用の概念画像(実写・実測像ではありません)。正確な数値・名称・構造は元の模式図をご確認ください。

元の模式図(正確な注記・数値)を表示
無機薄膜では、欠陥が透過の入り口になる(概念図) 基材フィルム上の無機層。左は欠陥のない理想、右は微小な欠陥のある場合 欠陥のない理想の被覆 ピンホール・亀裂のある被覆 気体は無機層で止まる 欠陥の隙間から基材へ抜ける 基材フィルム(高分子) 基材フィルム(高分子) ※ 赤い帯が無機層。厚さ・欠陥の大きさは説明のために誇張しています。 ※ da Silva Sobrinho らは SiO₂・SiN を PET にコーティングした膜で、残る酸素透過度が欠陥(ピンホール)に支配されることを示しました。
図4 概念図(ベクター作図)。欠陥が透過を支配するという考え方は da Silva Sobrinho らの研究[参考資料13]によります。欠陥の形・大きさ・本数は説明用に誇張した模式で、実際の膜の観察像ではありません。描き方は本記事によるものです。

同研究は、バリアコーティングの欠陥を通る気体の透過を、単純な幾何学的な考え方で表すモデルを示し、SiO₂ や SiN をコーティングした PET フィルムの酸素透過度(OTR)が、欠陥の数密度や大きさの分布と相関することを確認しました。 さらに、OTR の温度依存性(見かけの活性化エネルギー)が欠陥に支配された輸送というモデルと整合すること、そして酸素と水蒸気では透過の機構が異なる可能性があることを述べています事実。 同研究は、残る酸素透過度が膜のピンホール欠陥の存在で決まることを裏づけたとしています事実。

本稿の計算②:欠陥の面積率から見た透過度の下限の目安

前提本稿の計算

  • 無機層は欠陥のない部分を一切通さず、基材の高分子フィルムが露出した欠陥部だけを通ると仮定する
  • 欠陥部の総面積が全体の0.1%(面積率 f = 0.001)とする。基材だけのフィルムの透過度を J₀ とする

このとき、被覆後の透過度は f × J₀ = 0.001 × J₀、つまり基材単独の約1/1000が下限の目安になります。 実際には、欠陥の周囲の基材の中を気体が横方向にも広がって抜けるため、実測の透過度はこれより大きくなると考えられます(本記事による解説)。

前提と限界:この計算は、da Silva Sobrinho らの幾何学モデルを再現したものではありません。同研究のモデルの詳細は本稿では確認しておらず、面積率だけで透過度が決まるという単純化は本稿の仮定です。 欠陥の数密度と大きさの分布が実際の膜でどうなっているかも、本稿の調査範囲では扱っていません。

8. 素材技術者の視点②:膜の性能は「材料」より「穴」で決まることがある

素材技術者の読みどころ:評価するのは「膜」ではなく「欠陥の統計」

無機薄膜の性能が欠陥に支配されるとすると、材料開発の焦点は無機材料そのものの緻密さだけでなく、 欠陥の数と大きさをどう減らし、どう測るかに移ります。Carcia らが ALD で作った25 nm の Al₂O₃ 膜の WVTR がガラスの対照と近い水準だった結果は、 欠陥をごく少なくできる成膜法があることを示した例として読めます事実(読み取りは本記事の解説)。

  • 下地の影響:基材フィルムの表面の粗さや異物は、そのまま欠陥の起点になりうる(解説)。アンカーコートの役割は、図3の右側のとおり、基材と無機層の間を整える層と考えられる(解説。個別の製品での役割は本稿では確認していません)
  • 機械的な負荷:柔らかい高分子の上の硬い無機薄膜は、フィルムが曲がったり伸びたりすると割れやすい、という材料の組み合わせ上の弱点を持つ(解説。割れが始まるひずみなどの数値は本稿では確認していません)
  • 評価の難しさ:10⁻⁵ g/m²/日台の水蒸気透過は、カルシウム腐食のような特殊な方法でしか測れず、規格の標準的な範囲(ASTM F1249 では 0.052〜26 g/m²/日)より数桁小さい。この点は本シリーズ「封止とバリア層」編(ペロブスカイト太陽電池)でも、要求値が測定器の限界に近いという形で扱っています

金属・セラミックスの表面処理や薄膜を扱う方には、ピンホール密度で防食性能が決まるめっきや陽極酸化皮膜の話と同じ構図に見えるはずです(本記事による解説)。 高分子フィルムでは、そこに基材が水を吸って動くという要素が加わります。

9. コーティング ― 溶剤系・水系・UV硬化

高分子フィルムの表面に、バリア層・接着層・保護層を塗る技術がコーティングです。 塗る液の形によって、膜になる過程と、そのとき出てくるものが変わります。ここでは代表的な3方式を整理します(整理は本記事による解説で、各方式の個別の一次情報は下記のとおりです)。

溶剤系・水系・UV硬化コーティングの比較

ImageGenによる説明用の概念画像(実写・実測像ではありません)。正確な数値・名称・構造は元の模式図をご確認ください。

元の模式図(正確な注記・数値)を表示
コーティングの3方式:膜になるときに、何が出るか(概念図) 塗布液の形が、膜になる過程と排出物を決める 溶剤系 水系 UV硬化 塗布液 樹脂を有機溶剤に溶かす 塗布液 樹脂の粒子を水に分散 塗布液 反応性のモノマー・オリゴマー 膜になる過程 乾燥炉で溶剤が蒸発 膜になる過程 水が蒸発し粒子が融着 膜になる過程 UV照射で光重合・架橋 出るもの:溶剤(VOC) 回収・処理が必要 出るもの:主に水 助溶剤を含むことがある 出るもの:溶剤は不要な設計も 酸素による阻害に注意 ※ 3方式の整理は本記事によるものです。UV硬化は Decker のレビュー[参考資料16]、 PVDC が水性エマルションで供給される点は旭化成[参考資料10]によります。実際の塗布液は添加剤・助溶剤なども含みます。
図5 概念図(ベクター作図)。UV硬化の説明は Decker のレビュー[参考資料16]、水性 PVDC エマルションは旭化成[参考資料10]によります。3方式への整理・排出物の書き分けは本記事によるもので、各方式の優劣を示すものではありません。

(1) 溶剤系 ― 溶けるから塗れる。その代わり溶剤が出る

樹脂を有機溶剤に溶かして塗り、乾燥炉で溶剤を飛ばして膜にします。樹脂の溶解性さえ合えば、薄く均一に塗りやすいのが強みです(解説)。 一方で、飛ばした溶剤は VOC(揮発性有機化合物)です。第10章で見る規制が、この方式に直接関わります。

(2) 水系 ― 粒子が融着して膜になる

樹脂を粒子として水に分散させた塗布液(エマルション、ラテックス)を塗り、水が飛ぶと粒子が融着して連続した膜になります(解説)。 第5章の PVDC ラテックスは、この形で供給され、OPP・PET・ナイロン・PVC のフィルムにコートされます事実(旭化成)。 水系では、有機溶剤の排出を減らしやすい反面、水は蒸発しにくく、乾燥の条件や基材のぬれ性、粒子が融着して膜になる温度などが設計上の論点になります(本記事による解説。数値は本稿では確認していません)。

(3) UV 硬化 ― 光で一気に架橋する

Decker のレビュー(Macromolecular Rapid Communications、2002年)は、多官能モノマーや官能基を持つ高分子を光で重合させ、高度に架橋した高分子を作るUV 硬化を整理しています事実。 アクリレート系の樹脂では、開始速度が高いにもかかわらず、長い動力学的連鎖(ラジカル1個あたり7,700 mol)で硬化が進むこと、開始効率・オリゴマーの化学構造・光強度・酸素の阻害効果が重合速度に影響することが、リアルタイム赤外分光(RT-IR)で調べられたと述べられています事実。 同レビューは、UV 硬化が数秒で耐候性の保護コーティングを作ることにも成功してきたとしています事実。

素材技術者の目で見ると、UV 硬化の特徴は「溶剤を使わず、高度に架橋した膜が短時間でできる」点です(本記事による解説)。 その代償として、酸素による阻害、硬化収縮による内部応力、深部まで光が届かないことなどが設計上の論点になります(酸素阻害は上記レビューが影響因子として挙げています。収縮・応力・深部硬化は本稿の解説で、数値は確認していません)。 光硬化樹脂の収縮や後硬化は、本シリーズ「3Dプリンティング用樹脂」編でも扱います。

明るい試験工場で、巻き出しロールから出た透明フィルムに塗工ヘッドが薄い液膜を均一に塗り、紫外線ランプの下を通って巻き取りロールに巻かれていく塗工ラインの概念イメージ
図6 概念図(AI生成イメージ)。「透明フィルムに薄い液膜を均一に塗り、光で固めて巻き取る」という塗工の流れを表現したものです。実在の設備・塗布方式・液の色や粘度・膜厚を示すものではありません。

10. VOC 規制 ― 溶剤はどこへ行くのか

コーティングの方式選択に、規制が直接効いてきます。ここでは各地域の枠組みを、何を規制するか(施設の排出か、製品中の含有量か)の違いに注目して整理します。 規制の数値や適用の条件は頻繁に改正されるため、本稿では枠組みの考え方の確認にとどめ、実務では最新の法令を確認してください。

地域・制度規制の対象確認できた要点
EU 産業排出指令 2010/75/EU(附属書 VII)有機溶剤を使う施設・活動の排出VOC を「293.15 K で蒸気圧 0.01 kPa 以上、またはそれに相当する使用条件での揮発性を持つ有機化合物」と定義。附属書 VII 第1部に、接着剤塗布、コーティング、印刷(フレキソ印刷・ラミネート・ワニス塗布を含む)などの活動を列挙し、第2部に溶剤消費量のしきい値と排出限度値を定める
EU 指令 2004/42/EC特定の塗料・ワニス・自動車補修用製品の製品中の VOC 含有量題名のとおり、特定の塗料・ワニスおよび自動車補修用製品の有機溶剤による VOC 排出を制限する。施設の排出を規制する上記指令とは対象が異なる
日本 大気汚染防止法VOC 排出施設環境省のページによれば、法は9つの項目に分けて、一定規模以上の施設を「揮発性有機化合物排出施設」と定める。VOC の排出・飛散の抑制は、規制と事業者の自主的取組を組み合わせて進める
米国 EPA NESHAP(40 CFR Part 63 Subpart KK)印刷・出版業の有害大気汚染物質(HAP)出版用ロータリーグラビア、製品・包装のロータリーグラビア、広幅フレキソ印刷が対象で、最大限達成可能な制御技術(MACT)による HAP の抑制を求める。対象物質はキシレン、トルエン、エチルベンゼン、メチルエチルケトンなど

すべて事実(EU 2010/75/EU[参考資料17]、EU 2004/42/EC[参考資料18]、環境省[参考資料19]、米国 EPA[参考資料20])。VOC(揮発性有機化合物)と HAP(有害大気汚染物質)は、定義も規制の目的も異なるため、同じ物質群を別の観点で見ている場合があります。

本稿の計算③:EU 指令の「削減スキーム」で、溶剤の排出量はどう決まるか

EU 産業排出指令の附属書 VII 第5部は、コーティング・ワニス・接着剤・インキを使う場合の削減スキームを示しています。 年間に使う固形分(水や VOC が蒸発したあとに固体として残る成分)の質量に活動ごとの係数を掛けて「年間基準排出量」とし、これに(残留する漏えい排出の限度値+5)%(一部の区分は+15%)を掛けたものを「目標排出量」とします。実際の溶剤排出量が目標排出量以下なら適合です。 係数は、ロータリーグラビア・フレキソ印刷、印刷に伴うラミネート・ワニス塗布、織物・フィルム・紙のコーティング、接着剤塗布で 4、コイルコーティングと自動車補修で3、食品接触コーティングと航空宇宙用で2.33、その他のコーティングで1.5 です事実。

前提(本稿が置いた例)本稿の計算

  • 年間の固形分使用量を100 t、係数を4(ラミネート・ワニス塗布などの区分)とする
  • 漏えい排出の限度値は、溶剤消費量が25 t/年を超える区分の20%とする(附属書 VII 第2部の区分3の例)

年間基準排出量 = 100 t × 4 = 400 t。 目標排出量 = 400 t ×(20 + 5)% = 100 t。 つまり、基準の25%(75%削減)が目標です。 係数4は、固形分20%の溶剤系塗料なら溶剤が固形分の4倍出る計算に相当します(本稿の読み取りで、指令がそう説明しているわけではありません)。

水系との比べ方の例(仮定):同じ固形分100 t を、固形分40%・有機助溶剤が液全体の5%の水系塗布液で使う場合、液は100 ÷ 0.4 = 250 t、うち有機助溶剤は250 × 0.05 = 12.5 t です。 この水系の組成は本稿が置いた仮想の例で、実在の製品の組成ではありません。

前提と限界:実際の適用は、施設の区分、しきい値、新設か既設か、監視と溶剤管理計画の要件で決まります。この計算は規制の枠組みで「固形分あたりの溶剤の許容量」がどう考えられているかの感覚をつかむためのもので、適合判断には使えません。

11. 素材技術者の視点③:規制は材料選択の制約条件になる

素材技術者の読みどころ:「溶けるかどうか」が、規制のなかで効いてくる

バリア性の高い高分子(結晶性が高い、水素結合が強い、など)は、一般に溶剤にも溶けにくくなる傾向があります(本記事による解説)。 すると、バリア層をどんな塗布液の形で供給できるかが、材料選択を左右します。

  • 溶剤に溶けて塗れる → 溶剤系。ただし VOC の排出管理(回収・処理)が必要。EU の削減スキームは、溶剤の少ない代替品が開発途上の場合は、実施計画に猶予を与えるとしている事実
  • 水に分散できる → 水系。PVDC ラテックスのように、バリア高分子を粒子として供給する
  • 反応して固まる → UV 硬化など。高度に架橋した膜ができるが、素材としてはモノマー・オリゴマーの設計になる
  • 塗らずに、層として重ねる → 共押出多層(図3の左)。コーティングの溶剤問題そのものを避けられる

規制を「施設から出る量」(EU の産業排出指令、日本の大気汚染防止法)と、「製品に含まれる量」(EU の2004/42/EC)に分けて読むと、 自社が影響を受ける側がどちらかが見えます。同じ溶剤でも、どの法令が、どの量を、どの単位で縛るのかは異なります(本記事による解説)。 なお、PVDC が水性エマルションの形で供給されている事実と、VOC 規制の存在は別々に確認した事項で、両者の因果関係は本稿では主張しません。

12. 課題と、本稿で確認できなかったこと

(1) 規格本文の測定範囲・精度は扱っていない

ISO・JIS の規格本文は有料または公開プレビューの範囲で、本稿は題名・適用範囲・方式の記載の確認にとどめました。ISO 15105-2、ISO 15106-3 の測定可能な範囲や再現性は、本稿では確認していません。 ASTM D3985・F1249 は、公式ページに記載された室間試験の有効範囲(0.063〜64.4 cc/(m²・日)、0.052〜26 g/(m²・日))を引用しました。

(2) 材料ごとの透過係数の一覧は載せていない

ポリエチレン、PET、ナイロンなどの透過係数を、条件を揃えて比較できる一次情報(試験法・温度・湿度・厚さつき)は、本稿の調査範囲では確認できませんでした。 そのため、EVOH(クラレ公称値)と ALD の Al₂O₃ 膜(Carcia ら)以外の数値は載せていません。異なる条件の値を並べて優劣をつけることは避けています。

(3) 無機薄膜が割れるひずみ、PVDC・EVOH のリサイクル性は未確認

柔軟な基材上の無機薄膜が割れ始めるひずみの数値、および PVDC・EVOH を含む多層フィルムがリサイクル工程で問題になる程度は、本稿では一次情報で確認していません。 リサイクルの観点は、本シリーズ「プラスチックリサイクル」編で扱います。

(4) 水系・UV 硬化の定量的な比較は載せていない

乾燥エネルギー、膜厚、硬化収縮、生産速度などを、方式間で同条件で比較できる一次情報は、本稿の調査範囲では確認できませんでした。第9章の整理は定性的な解説にとどまります。

(5) 規制の最新の改正内容は確認していない

第10章は、各制度の枠組みと、本稿の調査時点で公式ページから読み取れた内容にとどまります。改正の有無、各国の施行時期、個別の排出基準は、最新の法令で確認してください。市場規模などの調査会社の推計は使っていません。

この記事のまとめ
  • 透過は「溶解して、拡散して、反対側に出る」過程で、透過係数は拡散係数と溶解度係数の積として整理できます(本記事による解説)
  • 透過度の数字は、物質・温度・湿度・厚さ・測定方式とセットです。EVOH は相対湿度75%を超えると透過度が大きく増えます事実
  • クラレ EVAL™ の酸素透過度は、エチレン含有量27 mol% の 0.1 から 48 mol% の 3.7 まで、約37倍開きます本稿の計算
  • 無機薄膜の残る透過度は、材料より膜の欠陥に支配されることがあります事実
  • コーティングは溶剤系・水系・UV硬化に整理でき、溶剤系は VOC 規制の影響を直接受けます。規制は施設の排出と製品中の含有量で対象が異なります事実

13. 用語集

透過度(GTR/WVTR)
試験片を単位面積・単位時間あたりに通り抜ける気体(水蒸気)の量。条件とセットで表す。
透過係数
厚さを除いた材料の定数としての透過のしやすさ。溶解度係数と拡散係数の積。
溶解・拡散モデル
気体が膜に溶け込み、濃度勾配に沿って拡散して通り抜けるとする考え方。
EVOH
エチレン・ビニルアルコール共重合体。酸素バリアに優れるが、湿度に敏感。
PVDC
ポリ塩化ビニリデン。酸素・水蒸気のバリア性を持ち、ラテックスとしてフィルムにコートされる。
共押出
複数の樹脂を同時に押し出して、一体の多層フィルムを作る加工方法。
ALD
原子層堆積。原子層ずつ膜を積む成膜法。ピンホールの少ない薄膜を作りやすい。
Ca テスト
カルシウム膜が水と反応して変わる性質を使い、極めて小さい水蒸気透過を測る方法。
ピンホール
膜に空いた微小な穴。バリア膜の透過の入り口になる。
VOC
揮発性有機化合物。EU の産業排出指令では、293.15 K で蒸気圧0.01 kPa 以上などと定義。
HAP
有害大気汚染物質。米国 EPA の NESHAP が規制の対象とする。
UV 硬化
紫外光で光開始剤から活性種を発生させ、モノマーを重合・架橋させる硬化方式。
固形分
塗布液のうち、水や溶剤が蒸発したあとに膜として残る成分。

14. 参考資料(一次情報)

  1. ISO ISO 15105-2:2025 Plastics film and sheeting — Determination of gas-transmission rate — Part 2: Equal-pressure method — iso.org
  2. ISO ISO 15106-3:2003 Plastics — Film and sheeting — Determination of water vapour transmission rate — Part 3: Electrolytic detection sensor method — iso.org
  3. ASTM International ASTM D3985-24 Standard Test Method for Oxygen Gas Transmission Rate Through Plastic Film and Sheeting Using a Coulometric Sensor — store.astm.org
  4. ASTM International ASTM F1249-25 Standard Test Method for Water Vapor Transmission Rate Through Plastic Film and Sheeting Using a Modulated Infrared Sensor — store.astm.org
  5. ASTM International ASTM E96/E96M-24 Standard Test Methods for Gravimetric Determination of Water Vapor Transmission Rate of Materials — store.astm.org
  6. 日本規格協会(JSA) JIS K 7126-1:2006 プラスチック―フィルム及びシート―ガス透過度試験方法―第1部:差圧法(公開プレビュー PDF) — webdesk.jsa.or.jp
  7. 日本規格協会(JSA) JIS K 7129:2008 プラスチック―フィルム及びシート―水蒸気透過度の求め方(機器測定法)(公開プレビュー PDF) — webdesk.jsa.or.jp
  8. クラレ EVAL™ 製品ページ(グレード別のエチレン含有量・融点・ガラス転移点・酸素透過度) — kuraray.com
  9. Zhang ら Permeation of oxygen and water vapor through EVOH films as influenced by relative humidity, J. Appl. Polym. Sci. 82, 1866–1872 (2001) — doi.org/10.1002/app.2030
  10. 旭化成 PVDC latex(Portal for Medical Materials) — asahi-kasei.co.jp
  11. Plastics Engineering(SPE) Inside Materials – PVDC(2024年10月) — plasticsengineering.org
  12. Lange ・ Wyser Recent innovations in barrier technologies for plastic packaging — a review, Packag. Technol. Sci. 16, 149–158 (2003) — doi.org/10.1002/pts.621
  13. da Silva Sobrinho ら Defect-permeation correlation for ultrathin transparent barrier coatings on polymers, J. Vac. Sci. Technol. A 18, 149–157 (2000) — doi.org/10.1116/1.582156
  14. Carcia ら Ca test of Al2O3 gas diffusion barriers grown by atomic layer deposition on polymers, Appl. Phys. Lett. 89, 031915 (2006) — doi.org/10.1063/1.2221912
  15. Wijmans ・ Baker The solution-diffusion model: a review, J. Membr. Sci. 107, 1–21 (1995) — doi.org/10.1016/0376-7388(95)00102-I
  16. Decker Kinetic Study and New Applications of UV Radiation Curing, Macromol. Rapid Commun. 23, 1067–1093 (2002) — doi.org/10.1002/marc.200290014
  17. 欧州連合 Directive 2010/75/EU on industrial emissions(Annex VII, Chapter V), EUR-Lex — eur-lex.europa.eu
  18. 欧州連合 Directive 2004/42/EC(decorative paints and vehicle refinishing products), EUR-Lex — eur-lex.europa.eu
  19. 環境省 揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制 — env.go.jp
  20. 米国 EPA The Printing and Publishing Industry: NESHAP — epa.gov

15. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
ISO 15105-2:2025 が、フィルム・シート・ラミネート・共押出材・柔軟なプラスチックコート材のガス透過度の等圧法を定め、第2版(2025年11月)が2003年版を置き換えたことISO 公式ページ[参考資料 1]https://www.iso.org/standard/91001.html事実
ISO 15106-3:2003 の題名(電解式検出センサ法による水蒸気透過度)ISO 公式ページ[参考資料 2]https://www.iso.org/standard/29783.html事実
ASTM D3985 の適用範囲(フィルム・シート・ラミネート・共押出・プラスチックコート紙/布の酸素透過度、クーロメトリセンサ)と、有効性が示された範囲 0.063〜64.4 cc/(m²・日)ASTM 公式ページ(D3985-24)[参考資料 3]https://store.astm.org/d3985-24.html事実
ASTM F1249 の適用範囲(厚さ3 mm 以下、変調式赤外線センサ)、有効性が示された範囲 0.052〜26 g/(m²・日)、透過率と厚さ・分圧差の関係が常に成り立つとは限らないという注記ASTM 公式ページ(F1249-25)[参考資料 4]https://store.astm.org/f1249-25.html事実
ASTM E96/E96M の題名、乾燥剤法・水法の2方式、試験条件は使用者の裁量で結果とともに報告するとされることASTM 公式ページ(E96/E96M-24)[参考資料 5]https://store.astm.org/e0096_e0096m-24.html事実
JIS K 7126-1:2006 の題名(差圧法)、附属書(圧力センサ法・ガスクロマトグラフ法)、ISO 15105-1:2002 を基礎とすることJSA 公開プレビュー[参考資料 6]https://webdesk.jsa.or.jp/preview/pre_jis_k_07126_001_000_2006_j_ed10_ch.pdf事実
JIS K 7129:2008 の題名(機器測定法)と、附属書A(感湿センサ法)・附属書B(赤外線センサ法)の構成JSA 公開プレビュー[参考資料 7]https://webdesk.jsa.or.jp/preview/pre_jis_k_07129_000_000_2008_j_ed11_ch.pdf事実
EVAL™ の標準グレード5種のエチレン含有量(27〜48 mol%)、融点(190〜157 ℃)、ガラス転移点(乾燥、63〜50 ℃)、酸素透過度(0.1〜3.7、20 ℃×65%RH、ISO 14663-2 附属書C)。「酸素を含む気体の透過に対する優れたバリア性」の記載。単位表記が m³ と印字されていることクラレ EVAL™ 製品ページ(メーカー公称値)[参考資料 8]https://www.kuraray.com/in-en/products/eval/事実
EVOH フィルムの酸素・水蒸気の透過度が温度と相対湿度で顕著に変わり、低湿度で最小、相対湿度75%超で大きく増えること、エチレン含有量と配向に依存すること、低湿度での小ささを水分子との強い相互作用による鎖の動きにくさに帰していることZhang ら(2001)の要旨[参考資料 9]https://doi.org/10.1002/app.2030事実
PVDC ラテックスが酸素などの気体と水蒸気に対する高いバリア性の薄膜を作り、OPP・PET・ナイロン・PVC のフィルムのコーティングに使われること旭化成 製品ページ[参考資料 10]https://www.asahi-kasei.co.jp/fibers/en/medical/products/latex.html事実
PVDC が二塩化ビニリデンの重合体で、1分子あたり2つの塩素原子を含み、優れたバリア性、耐薬品性、難燃性を備えることPlastics Engineering(SPE)の解説記事[参考資料 11]https://plasticsengineering.org/2024/10/inside-materials-pvdc-006906事実
包装用プラスチックのバリア技術の革新が5つの方向(真空蒸着コーティング、バリア高分子、ブレンド、有機バリアコーティング、ナノコンポジット)に整理されること、既存の解決策にコスト・水への敏感さ・不透明さ・環境面の欠点があることLange・Wyser(2003)の要旨[参考資料 12]https://doi.org/10.1002/pts.621事実
SiO2・SiN をコーティングした PET で、欠陥の数密度・大きさと酸素透過度が相関し、残る酸素透過度が欠陥に支配されること、酸素と水蒸気で透過機構が異なる可能性があることda Silva Sobrinho ら(2000)の要旨[参考資料 13]https://doi.org/10.1116/1.582156事実
25 nm の Al2O3 ALD 膜の WVTR が 38 ℃で 1.7×10⁻⁵、60 ℃で 6.5×10⁻⁵ g/m²/日、23 ℃の推定値が 6×10⁻⁶ g/m²/日であり、ガラスの対照に近いこと、Ca テストで測定したことCarcia ら(2006)の要旨[参考資料 14]https://doi.org/10.1063/1.2221912事実
膜を通る輸送が「各成分が膜に溶け込み、化学ポテンシャルの勾配で拡散して通り抜ける」溶解・拡散モデルで整理されることWijmans・Baker(1995)のレビュー(題名および分野で広く知られた内容。本稿は本文の詳細を再確認していない)[参考資料 15]https://doi.org/10.1016/0376-7388(95)00102-I事実
UV 硬化が多官能モノマーの光重合による高度な架橋であること、アクリレート系で動力学的連鎖が長い(7,700 mol/ラジカル)こと、酸素の阻害効果などが重合速度に影響すること、数秒で保護コーティングを作る成功例があることDecker(2002)の要旨[参考資料 16]https://doi.org/10.1002/marc.200290014事実
EU 産業排出指令での VOC の定義(293.15 K で蒸気圧 0.01 kPa 以上)、附属書 VII の活動の列挙としきい値、第5部の削減スキーム(固形分×係数、目標排出量=基準排出量×(漏えい限度+5)%、溶剤の少ない代替品が開発途上の場合の猶予)、係数の値EUR-Lex 指令 2010/75/EU[参考資料 17]https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32010L0075事実
指令 2004/42/EC が、特定の塗料・ワニス・自動車補修用製品の有機溶剤による VOC 排出を制限するものであることEUR-Lex 指令 2004/42/EC(題名)[参考資料 18]https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32004L0042事実
大気汚染防止法が9つの項目に分けて一定規模以上の施設を「揮発性有機化合物排出施設」と定めること、規制と自主的取組を組み合わせて進めること環境省ページ[参考資料 19]https://www.env.go.jp/air/osen/voc/voc.html事実
米国 EPA の NESHAP(40 CFR Part 63 Subpart KK)が、出版用・製品包装用ロータリーグラビアと広幅フレキソ印刷の HAP を MACT で規制し、対象物質にキシレン・トルエン・メチルエチルケトンなどが含まれること米国 EPA ページ[参考資料 20]https://www.epa.gov/stationary-sources-air-pollution/printing-and-publishing-industry-national-emission-standards事実
38 ℃→60 ℃で WVTR が約3.8倍。27 mol% と 48 mol% の酸素透過度の比が約37倍。ASTM F1249 の有効範囲の下限と Al2O3 膜の WVTR の比が約3,100倍本稿の計算。Carcia ら[参考資料 14]、クラレ[参考資料 8]、ASTM F1249[参考資料 4]の公表値からの除算で、測定条件が値ごとに異なるため同一条件の比較ではない本稿の計算
EVOH 20 µm 層を通って1年間に入る酸素(約0.77/2.3/28 cm³)、欠陥面積率0.1%での透過度の下限の目安(基材の約1/1000)、EU 削減スキームの数値例(基準排出量400 t、目標100 t、75%削減)と仮想の水系組成(12.5 t)本稿の計算。層厚・面積・酸素分圧・欠陥面積率・固形分使用量・水系の組成は、いずれも本稿が置いた前提である。許容される酸素侵入量や実在製品の組成を示すものではない本稿の計算
P = D × S という整理、厚さに反比例するという読み取り、水による可塑化、金属・セラミックスの拡散との対比、EVOH が多層で挟まれて使われること、水素結合による説明、PVDC の塩素に関する論点、アンカーコートの役割、無機薄膜の割れやすさ、水系・UV 硬化の設計上の論点、規制を「施設の排出」と「製品中の含有量」に分けて読むこと公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各社・各機関が表明した見解ではない解説
規格本文の測定範囲・精度、材料別の透過係数の一覧、無機薄膜が割れるひずみ、多層フィルムのリサイクル性、水系・UV 硬化の定量比較、規制の最新の改正内容本稿の調査範囲では公開された一次情報で確認できなかったため記載していない解説
図1〜図5が実際の観察像・設計図ではなく説明のための作図であること。ヒーロー画像と図6がAI生成イメージであること本記事による注記解説

最終更新:2026年10月2日/出典は一次情報(規格団体の公式ページ・公開プレビュー、査読論文、メーカーの公式製品ページ、EU・日本・米国の公的機関の公開資料)に限定しています。 構造の整理や材料設計上の読み取りを含むため、それらは「解説」として出典付きの事実と区別しています。 規格本文の測定範囲・精度、材料別の透過係数の一覧、無機薄膜が割れるひずみ、多層フィルムのリサイクル性、水系・UV 硬化の定量比較、規制の最新の改正内容については、公開された一次情報で確認できなかったため記載していません。 カタログ値はメーカー公称値で、グレードや条件が異なる値を並べて優劣をつけることはしていません。 図はすべて説明用の概念図です。図1〜図5はベクター作図、ヒーロー画像と図6はAI生成イメージであり、いずれも実際の製品・設備・顕微鏡像を示すものではありません。