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PEEKとスーパーエンプラ 技術解説 | Troy Technical

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TECHNOLOGY EXPLAINER

PEEKとスーパーエンプラ
― 「高温でも使える」を、結晶性・Tg・充填材から読み解く

PEEK、PEI、PPS、PES・PSU、液晶ポリマー(LCP)。耐熱性が高く、金属の代わりに使われる高性能樹脂の総称がスーパーエンプラです。ところが「耐熱温度」という数字は、ガラス転移温度、融点、荷重たわみ温度、連続使用温度で100 K 以上も違うことがあります。この記事では、メーカーの技術データシートの数字を試験法とともに並べ、結晶性と非晶性の違い、充填材の効果、加工の条件、用途、そして供給の集中について整理します。ポリイミドは別編に譲ります。

構成:Victrex、Syensqo、SABIC、Toray、Celanese、Daicel の公表資料、ASTM・ISO、Victrex 年次報告書を一次情報として使用/最終更新 2026年10月

明るい加工室の台に、淡い黄褐色の樹脂の丸棒、歯車、ブッシュ、リングと、同じ形の銀色の金属の歯車が並び、手袋をした手が樹脂の歯車を持ち上げている概念イメージ
概念図(AI生成イメージ)。金属の代わりに使われる硬い樹脂部品を、金属の同形部品と並べた加工室の場面として表現したものです。実際の製品・部品・材料の外観や色を示すものではありません。
この記事の構成
  1. スーパーエンプラとは何か(3行でつかむ)
  2. 3つの構造タイプ ― 結晶性・非晶性・液晶性
  3. 素材技術者の視点①:PEEK の「耐熱温度」は一つではない
  4. 素材技術者の視点②:充填材は Tg を超えたところで効く
  5. 高温の加工条件
  6. 非晶性のスーパーエンプラ ― PEI・PSU・PES
  7. 液晶ポリマー(LCP)― 流れやすさと寸法精度
  8. 用途 ― 金属代替・医療・航空宇宙・半導体・電子
  9. 素材技術者の視点③:供給の集中をどう読むか
  10. 未確定の点と、この記事が扱わなかったこと
  11. 用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=公表資料・規格・年次報告書・論文に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・見通しであり、実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。 物性値はメーカー公称の代表値であり、グレード・試験法・条件が異なるものを並べて優劣をつけることはしません。 市場規模・シェアの推計は使わず、企業が自社の開示資料に書いた数字に限って、会計年度と通貨を明記して使います。

1. スーパーエンプラとは何か(3行でつかむ)

3行でつかむ
  • スーパーエンプラは、汎用エンプラ(ポリアミド、ポリカーボネートなど)より耐熱性・機械強度・耐薬品性の高い樹脂の呼び名で、法令や規格で定まった定義はありません(本記事による整理)。この記事ではPEEK、PEI、PPS、PES・PSU、LCPを扱います。
  • 耐熱性を支える仕組みは3種類あります。結晶が融けるまで保つ結晶性(PEEK、PPS)、ガラス転移まで保つ非晶性(PEI、PSU、PES)、溶融しても分子が並ぶ液晶性(LCP)です(本記事による整理)。
  • 「何度まで使えるか」は、指標ごとに答えが違います。Victrex の PEEK 450G では、ガラス転移(onset)が143℃、融点が343℃、UL 746B の相対温度指数が強度で240℃、電気で260℃と公表されています事実[参考資料2]。

ポリイミドは、PEEK などよりさらに高い耐熱性を持つ別系統の高分子で、本シリーズの「ポリイミド」編で詳しく扱います。フッ素樹脂は「フッ素樹脂とPFAS」編、炭素繊維で強化した複合材料は「CFRPと複合材料」編、ガラス転移とクリープの基本は「ガラス転移点とクリープ」編で扱います。汎用エンプラとの比較には、「ポリアミド」編と「ポリカーボネートとABS樹脂」編が役立ちます。

2. 3つの構造タイプ ― 結晶性・非晶性・液晶性

スーパーエンプラの3つの構造タイプ

ImageGenによる説明用の概念画像(実写・実測像ではありません)。正確な数値・名称・構造は元の模式図をご確認ください。

元の模式図(正確な注記・数値)を表示
スーパーエンプラの3つの構造タイプ(本記事による整理) 結晶性・非晶性・液晶性。耐熱を支える仕組みが異なる。 結晶性 PEEK・PPS 結晶が融けるまで形を保つ 非晶性 PEI・PSU・PES ガラス転移まで形を保つ 液晶性(LCP) 全芳香族ポリエステル 溶融しても分子が並んだまま 結晶性:Tm と Tg の両方が指標。非晶性:Tg が上限の目安。LCP:流れやすさと寸法精度が持ち味。 ※ 各タイプの特徴は Toray[参考資料6]、SABIC[参考資料8]、Celanese[参考資料12]、Daicel[参考資料13]、ASTM F2026[参考資料5]の記述による。 ※ 図は規則性の違いを示す模式で、実際の結晶構造や分子配置ではない。
図1 概念図(ベクター作図)。スーパーエンプラを結晶性・非晶性・液晶性の3タイプに整理した模式です。各タイプの特徴は Toray[参考資料6]、SABIC[参考資料8]、Celanese[参考資料12]、Daicel[参考資料13]、ASTM F2026[参考資料5]の記述によります。分類は本記事による整理で、図の分子配置は規則性の違いを示す模式です。

(1) 結晶性 ― PEEK と PPS

ASTM F2026(外科用インプラントのPEEK)は、PEEK を、フェニレン環がエーテル(E)とカルボニル(ケトン、K)で連なった純粋な半結晶性のホモポリマーで、繰り返し単位は EEK と定義しています事実[参考資料5]。 PPS について Toray は、融点が約278℃、ガラス転移温度が約93℃(製品ページでは約90℃)で、十分に結晶化した成形品の結晶化度は、グレードと測定法によりますが約40〜60%になる、と説明しています事実[参考資料6・7]。 また、射出成形用グレードの重量平均分子量は約2万〜6万です[参考資料6]。

代表的なスーパーエンプラのガラス転移温度(Tg)と融点(Tm) メーカー公称値。測定法・グレードが異なるため、数字どうしの優劣は比べない。 0 100 200 300 400 温度(℃) PEEK(Victrex 450G) Tm 343 Tg 143 PPS(Toray Torelina) Tm 278 Tg 93 PEI(SABIC ULTEM 1000) Tg 217 Tg(ガラス転移温度) Tm(融点) 灰色の帯=Tg から Tm の範囲
図2 概念図(ベクター作図)。メーカー公称のTgとTmを並べたものです。PEEK は Victrex の技術データ[参考資料2](ISO 11357-2 の onset と ISO 11357-3)、PPS は Toray[参考資料6]、PEI は SABIC[参考資料8]によります。測定法・グレード・条件が異なる値であり、数字の優劣を比べる図ではありません。

Tg から Tm までの幅を計算すると、PEEK で 343−143=200 K、PPS で 278−93=185 Kです本稿の計算。この区間では、結晶が骨格として残りますが、非晶部は軟らかくなっています(本記事による解説。具体的な剛性の落ち方は第3章で示します)。

(2) 非晶性 ― PEI・PSU・PES

SABIC は ULTEM 1000 を、ガラス転移温度が217℃の非晶性ポリエーテルイミド(PEI)樹脂と説明しています事実[参考資料8]。Syensqo は Veradel A-301 を非晶性のポリエーテルスルホン(PESU)、Udel P-1700 をポリスルホン(PSU)としています[参考資料14・15]。非晶性樹脂には融点がなく、使用温度の上限はガラス転移温度で決まると考えるのが基本です(本記事による解説。詳しくは第6章)。

(3) 液晶性 ― LCP

Daicel(旧Polyplasticsの事業)は、LCP の基本構造は全芳香族ポリエステルで、重要な単量体はパラヒドロキシ安息香酸(p-HBA)であると説明しています。p-HBA だけを重合したポリマーは溶けないので加工できず、そのため別の単量体と共重合して、融点と液晶性のバランスを取ります事実[参考資料13]。第7章で詳しく述べます。

3. 素材技術者の視点①:PEEK の「耐熱温度」は一つではない

Victrex の PEEK 450G(無充填の標準グレード)の技術データシートから、温度に関する指標を拾います。

指標値試験法・条件
ガラス転移温度(Tg)onset 143℃/中点 150℃ISO 11357-2
荷重たわみ温度(1.8 MPa、アニールなし)152℃ISO 75-2/Af
融点(Tm)343℃ISO 11357-3
相対温度指数 RTI(衝撃/強度/電気)180℃/240℃/260℃UL 746B
曲げ応力(23℃/125℃/175℃/275℃)165/85/19/12.5 MPaISO 178
線膨張係数(流れ方向)Tg 以下/以上45/120 ppm/KISO 11359-2

すべて Victrex PEEK 450G の公表値(事実)[参考資料2]。測定法は ISO 11357-2[参考資料18]、ISO 11357-3[参考資料19]、ISO 11359-2[参考資料20]、ISO 75-2[参考資料21]、ISO 178、UL 746B。

PEEKの「耐熱温度」は一つではない ― 450Gの温度の指標(メーカー公称値) Victrex の技術データシート。同じ材料でも指標ごとに100K以上の差がある。 100℃ 150℃ 200℃ 250℃ 300℃ 350℃ Tg(onset) 143 HDT 1.8 MPa 152 RTI 衝撃 180 RTI 強度 240 RTI 電気 260 Tm 343 他の資料に書かれた「連続使用」の目安(グレード・条件が異なるため別枠) ・Syensqo KetaSpire PEEK:連続使用温度 最大 240℃(同社の説明) ・Victrex 電子機器向けページ:連続使用の高温に 最大 260℃ まで耐える(同社の説明) ・Toray Torelina(PPS):連続使用温度 200〜240℃(上限温度の定義:強度が50%以上保たれる温度) ※ 上段は Victrex PEEK 450G の技術データ[参考資料2](ISO 11357-2/-3、ISO 75-2/Af、UL 746B)。Tg と HDT は同じ 143〜152℃ 付近にある。 ※ 下段は Syensqo[参考資料11]、Victrex[参考資料9]、Toray[参考資料6・7]の記載。RTI は UL 746B による長期熱劣化の指標。 ※ 「どの指標か」で数字が変わる。設計温度を決めるときは、荷重・時間・求める特性(強度・衝撃・電気)まで確認すること。
図3 概念図(ベクター作図)。PEEK 450Gの温度に関する指標を一本の温度軸に並べたものです。上段は Victrex の技術データ[参考資料2]、下段は Syensqo[参考資料11]、Victrex の電子機器向けページ[参考資料9]、Toray[参考資料6・7]の記載です。下段は別の材料・別の定義であり、上段と直接比較できません。
素材技術者の読みどころ:Tg は「剛性が落ち始める温度」、Tm は「形がなくなる温度」、その間の数字は用途で選ぶ

上の表で最も大事なのは、荷重たわみ温度(152℃)がガラス転移温度(143℃)とほぼ同じことです。無充填の PEEK は、Tg を少し超えると、荷重下で急に変形します。曲げ応力は 23℃の165 MPa から 175℃では19 MPa に落ち、保持率は 19÷165=約12%です本稿の計算。 一方、融点の343℃は、結晶が融けて形がなくなる温度であり、荷重を支える温度ではありません。

RTI(UL 746B)は、長期の熱劣化で特性が半分程度になるまでの温度の目安で、衝撃(180℃)、強度(240℃)、電気(260℃)で違うのは、特性ごとに劣化の速さが違うからです(本記事による解説)。 「PEEK は260℃まで使える」という言い方は、電気絶縁の指標としては成立しますが、荷重を支える部品の設計温度としては別の議論です。 設計温度を決めるときは、荷重の有無、時間、求める特性(強度・衝撃・電気)を確認する必要があります。

4. 素材技術者の視点②:充填材は Tg を超えたところで効く

Victrex は、PEEK に30%のガラス繊維を入れた 450GL30、30%の炭素繊維を入れた 450CA30 のデータシートも公表しています。3グレードを並べます。

項目(試験法)450G(無充填)450GL30(GF 30%)450CA30(CF 30%)
密度(ISO 1183)1.30 g/cm³1.51 g/cm³1.40 g/cm³
引張弾性率 23℃(ISO 527-1)4,000 MPa11,500 MPa28,000 MPa
引張破断ひずみ 23℃(ISO 527-2)25%3.0%1.7%
曲げ応力 23℃/175℃(ISO 178)165/19 MPa275/80 MPa380/130 MPa
荷重たわみ温度 1.8 MPa(ISO 75-2/Af)152℃328℃336℃
線膨張係数 流れ方向 Tg 以下/以上(ISO 11359-2)45/120 ppm/K18/18 ppm/K5/6 ppm/K
線膨張係数 平均 Tg 以下/以上(ISO 11359-2)55/140 ppm/K45/110 ppm/K40/100 ppm/K
成形収縮率 流れ直角/流れ方向(ISO 294-4)1.3/0.90%0.90/0.30%0.50/0.10%
熱伝導率 23℃(ISO 22007-4)0.29/0.32 W/m/K0.30/0.35 W/m/K0.95/2.0 W/m/K

すべて Victrex の公表値(事実)[参考資料2・3・4]。熱伝導率は資料に2つの値が併記されています(測定方向などの注記は資料の脚注)。450CA30の体積抵抗率は 1.0×10⁵ Ω·cm と記載されており、電気絶縁材ではありません。引張特性の試験法は ISO 527-1[参考資料22]です。

Victrex PEEKの曲げ応力の温度依存(ISO 178、メーカー公称値) 無充填とガラス繊維・炭素繊維30%強化の3グレード。縦の破線はTg(onset 143℃)。 0 100 200 300 400 0 50 100 150 200 250 300 試験温度(℃) 曲げ応力(MPa) Tg 143℃ PEEK 450G(無充填) 450GL30(ガラス繊維30%) 450CA30(炭素繊維30%) ※ 値は Victrex の技術データ[参考資料2・3・4]。175℃での保持率(23℃比)は本稿の計算で 12%/29%/34%(無充填/GL30/CA30)。
図4 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。曲げ応力は Victrex の技術データ[参考資料2・3・4]の値、保持率は本記事の計算です。試験は同一メーカー・同一試験法ですが、3グレードは別製品です。175℃での保持率(23℃比)は 12%/29%/34%(無充填/GL30/CA30)です。
本稿の計算:充填材の効果
  • 引張弾性率:11,500÷4,000=約2.9倍(GL30)、28,000÷4,000=7.0倍(CA30)
  • 比弾性率(弾性率÷密度):4,000÷1.30=約3.1、11,500÷1.51=約7.6、28,000÷1.40=20.0(いずれも GPa ÷ g/cm³)
  • 荷重たわみ温度と Tg の差:無充填は 152−143=+9 K、GL30 は 328−143=+185 K、CA30 は 336−143=+193 K
  • 線膨張係数の異方性:GL30 では「平均 45」÷「流れ方向 18」=約2.5倍、CA30 では 40÷5=8倍
  • 175℃の曲げ応力保持率(23℃比):12%/29%/34%
  • 125℃の曲げ応力保持率:85÷165=52%、190÷275=69%、275÷380=72%

本稿の計算 前提:公表値の比と差をとったもので、「平均」の線膨張係数は資料に定義の注記がなく、流れ方向と直角方向の平均的な値と読んだ解釈です。

素材技術者の読みどころ:充填材が助けるのは「室温の剛性」より「Tg を超えた領域の剛性」

室温の弾性率は、ガラス繊維で約2.9倍、炭素繊維で7倍になります。しかし本当の違いは Tg を超えたところで出ます。 無充填の荷重たわみ温度が Tg の少し上(+9 K)にとどまるのに対し、GL30 と CA30 は Tg より185〜193 K 高い(328℃、336℃)。繊維が荷重を支える骨格になり、軟らかくなった非晶部に代わって形を保つ、と読めます(本記事による解説)。

一方で、代償もあります。引張破断ひずみは 25% → 3.0% → 1.7% と大きく下がり、成形収縮率と線膨張係数には方向差(異方性)が生じます。 CA30 の線膨張係数は流れ方向で5 ppm/K と極めて小さいのに、平均では40 ppm/K と、方向によって別の材料のように違います。 この異方性は、「熱膨張係数」編で扱うように、異種材料と組み合わせたときの熱応力の予測を難しくします。 さらに CA30 は導電性(体積抵抗率 1.0×10⁵ Ω·cm)で、絶縁材料としては使えません[参考資料4]。

5. 高温の加工条件

スーパーエンプラは、加工の面でも別世界です。各社のデータシートの推奨条件を並べます。

項目PEEK 450GPEEK 450GL30PEEK 450CA30PEI ULTEM 1000
乾燥120〜150℃、3〜5時間同左同左150℃、4〜6時間
成形前の含水率の上限0.020%0.020%0.020%0.02%
バレル温度(後→前、ノズル)355→370℃、375℃360→380℃、385℃375→390℃、395℃330〜400→345〜415℃、345〜405℃
金型温度170〜200℃180〜200℃180〜210℃135〜180℃
溶融粘度 400℃(ISO 11443)350 Pa·s550 Pa·s675 Pa·s—

すべてメーカー公称(事実)[参考資料2・3・4・8]。Victrex は「データシートの加工条件は自社ラボでの典型値」と断っています。ULTEM 1000 の溶融温度は350〜410℃です。PEEK 90P(粉体グレード)の溶融粘度は 400℃で 90 Pa·s、押出の溶融温度は380〜400℃[参考資料1]。

素材技術者の読みどころ:金型温度と Tg の関係が、結晶性か非晶性かを分ける

PEEK の金型温度は 170〜200℃で、Tg(143℃)より高く設定されています。結晶化の進む温度域で保持することが、結晶化度、つまり剛性や耐薬品性を決めるからです(本記事による解説)。 PPS も同じで、Toray は、結晶が約290℃近くまで残りうるため、成形温度は300℃以上が望ましく、低温の金型で成形すると結晶化度が低くなり、120〜130℃付近に冷結晶化のピークが現れる、と説明しています事実[参考資料6]。 一方、非晶性の PEI は金型温度が 135〜180℃で、Tg(217℃)より低いです[参考資料8]。結晶化させる必要がなく、Tg より低い温度で固めるだけだからです(本記事による解説)。

溶融温度と融点の差もわかります。PEEK 450G のノズル温度375℃は、融点343℃より32 K高く、押出の400℃では57 K高い計算です本稿の計算。 融点の直上で加工するため、温度窓は狭く、滞留で熱劣化しやすい(本記事による解説)。 PEI の溶融温度(350〜410℃)は Tg より133〜193 K 高く、温度窓は広めです本稿の計算。

水分については、PEEK も PEI も、成形前の含水率の上限は0.02%以下です[参考資料2・8]。 吸水率の絶対値は小さく(PEEK 450G は23℃の水中飽和で0.45%、100℃で0.55%。ISO 62[参考資料23]の方法[参考資料2])、乾燥が必要な理由は、ポリアミドやポリカーボネートと同様、溶融温度で水が主鎖に作用しうるためだと考えられます(本記事による解説)。 また、ULTEM 1000 は、乾燥時間の累積が24時間を超えないよう注記されています[参考資料8]。

6. 非晶性のスーパーエンプラ ― PEI・PSU・PES

項目(試験法)PEI
SABIC ULTEM 1000
ガラス転移温度217℃
荷重たわみ温度 1.8 MPa(ISO 75/Af)/0.45 MPa(ISO 75/Bf)192℃/209℃
ビカット軟化温度 B/50(ISO 306)211℃
引張弾性率(ISO 527、1 mm/min)3,200 MPa
降伏応力・破断ひずみ(ISO 527、50 mm/min)110 MPa・50%
線膨張係数 −40〜150℃(ISO 11359-2)52 ppm/K(5.2×10⁻⁵/℃)
密度(ISO 1183)1.27 g/cm³
吸水(23℃/50%RH 平衡、ISO 62-4)/水中飽和(ISO 62-1)0.7%/1.25%
UL 94V-0(0.75 mm 以上)、V-2(0.4 mm 以上)、5VA(3 mm 以上)
限界酸素指数47%(ISO 4589)
UL 746B RTI(電気/機械、衝撃あり/なし)170℃

すべて SABIC の公表値(事実)[参考資料8]。SABIC は「無充填の非晶性PEI樹脂で、非晶性としては耐薬品性が非常に良く、本質的に難燃(UL 94 V0・5V、航空機内装材の FAR 25.853 適合)、ハロゲン不含」と説明しています。

PSU・PES は、Syensqo が供給する Udel(PSU)と Veradel(PESU)です。同社の説明では次のとおりです事実。

  • Udel P-1700(PSU):強靭で剛性が高く、最高 149℃(300°F)の連続使用に適する。酸化と加水分解に強く、繰り返しの滅菌(蒸気、電子線、エチレンオキシドなど)に耐える。鉱酸、アルカリ、塩溶液に強い一方、ケトン、塩素系溶剤、芳香族炭化水素などの極性溶剤で侵されうる。食品との繰り返し接触に FDA 21 CFR 177.1655 に適合する[参考資料14]。
  • Veradel A-301(PESU):透明な非晶性の PESU で、高い荷重たわみ温度、靭性、寸法安定性、鉱酸への耐性を持つ。熱安定性、耐クリープ性、本質的な難燃性があり、FDA 適合で食品との直接接触が認められている。以前は Radel A として販売されていた[参考資料15]。
素材技術者の読みどころ:非晶性の強みは「透明・加工しやすさ・滅菌」、弱みは「溶剤」

PEEK は結晶が溶剤の浸入を妨げるため耐薬品性が高く、Syensqo は PEEK の耐薬品性を PPS と同程度と述べています[参考資料11]。 非晶性の PSU は、同社自身が、極性溶剤(ケトン、塩素系溶剤、芳香族炭化水素)で侵されうると明記しています[参考資料14]。 SABIC が PEI の耐薬品性を「非晶性としては非常に良い」と限定して書いているのも、同じ事情を反映していると読めます[参考資料8](本記事による解説)。

また、PEI の荷重たわみ温度(192℃)は、無充填 PEEK(152℃)より高い数字です。これは Tg(217℃と143℃)の差に対応します本稿の計算(192−152=40 K、217−143=74 K。試験片や条件が異なる別メーカーの値のため目安)。 無充填の状態で、荷重を支える温度は非晶性のほうが高いことがある——結晶性の優位は、Tg を超えた後の「保持率」と耐薬品性、疲労にある、と整理できます(本記事による解説。疲労は Syensqo が KetaSpire の強みとして挙げている点で[参考資料11]、本稿では数値を扱いません)。

7. 液晶ポリマー(LCP)― 流れやすさと寸法精度

結晶性樹脂とLCPの溶融状態の違い

ImageGenによる説明用の概念画像(実写・実測像ではありません)。正確な数値・名称・構造は元の模式図をご確認ください。

元の模式図(正確な注記・数値)を表示
溶融状態の違い ― 一般の結晶性樹脂とLCP(概念図) Celanese の説明にもとづく模式。 一般の結晶性樹脂:溶融するとランダム LCP:溶融しても分子が整列 薄肉を流れにくくなりやすい 低い溶融粘度で薄肉・微細形状を満たす ※ 「LCP分子は溶融中も秩序を保ち、せん断下で互いに滑りやすい。結果として溶融粘度が非常に低く、極薄肉も充填できる」[参考資料12]。 ※ 分子の本数・長さ・配置は説明のための模式。流れ方向に収縮がほとんどない点は第7章を参照。
図5 概念図(ベクター作図)。一般の結晶性樹脂とLCPの溶融状態の違いを示した模式です。Celanese の説明[参考資料12]にもとづきます。分子の本数・長さ・配置は説明のための模式で、実際の構造ではありません。

Celanese は、LCPを「高度に結晶性で、本質的に難燃の、サーモトロピック(溶融配向性)の熱可塑性樹脂」と説明しています。一般の半結晶性ポリマーは溶融するとランダムな構造になり、冷えるときに規則的な結晶領域が非晶のマトリックスに囲まれて生じますが、LCPは溶融中も分子が整列していて、せん断下で互いに滑りやすい。その結果、溶融粘度が非常に低く、極薄肉や複雑な形状を満たせます。流れ方向の収縮がほとんどなく、固まるのも速いので、サイクルが短くなります事実[参考資料12]。

Daicel は、LAPEROS LCP を、薄さと流動性を併せ持つ材料で、薄くなるほど断面積あたりの機械強度が高くなる性質があり、線膨張係数が金属に近く、高弾性で振動吸収性もあり、表面実装(SMT)のはんだ耐熱性を持つ、と説明しています事実[参考資料13]。

項目公表されている内容出典
用途として挙げられているものコネクタ、アンテナ、CPUソケット、小型カメラモジュール、センサー、小型モーター、医療機器、歯科・手術器具、サーバー、モバイル機器、ライダー、ウェアラブル機器、調理器具Celanese[12]
押出での用途無充填品はフィルム・シートの押出、バリア包装の共押出、高性能繊維・糸の溶融紡糸に使えるCelanese[12]
誘電特性Vectra・Zenite は、誘電率(Dk)と誘電正接(Df)を調整したグレード、広い周波数で Dk/Df が一定のグレード、メッキが可能なグレードを追加しているCelanese[12]
Zenite 350 LDSアンテナ・センサー・コネクタの小型化向け。LDS(レーザー直接構造化)に対応、SMTはんだ対応、V-0、低反りCelanese[12]
主なグレードの特徴A130(ガラス繊維強化、高強度・高靭性)、E130i/E463i/E471i/E473i(標準、SMT向け、低反り・低異方性・高流動など)、S135/S471/S475(高耐熱、高温剛性)Daicel[13]

すべて各社の公表資料の記載(事実)。数値のない記述が中心で、グレード間・他社間の優劣を示すものではありません。

素材技術者の読みどころ:「流れ方向の収縮がない」は、直角方向の話と表裏一体

LCP の分子は流れ方向に並びやすいため、流れ方向の物性(収縮、膨張、強度)は、流れ直角方向と大きく異なります(本記事による解説)。 PEEK の炭素繊維強化品で見たように(第4章)、異方性は薄肉・微細形状の精度の源であると同時に、反りや溶着部(ウェルド)の弱さの源にもなります。 Daicel が「低反り」「低異方性」を、グレードの特徴として別途挙げている[参考資料13]のは、その裏返しです。

また、LCP は p-HBA 単独では溶融しないため、共重合で融点を調整します[参考資料13]。つまり同じ「LCP」でも、組成によって融点・耐熱が異なる材料群で、耐熱性のタイプ分けは、メーカーごとのグレード体系で確認する必要があります(Daicel は、標準グレードと高耐熱グレードを分けています[参考資料13])。

8. 用途 ― 金属代替・医療・航空宇宙・半導体・電子

分野公表資料の記載出典
金属代替(全般)Syensqo は、KetaSpire PEEK が最高240℃の連続使用温度で優れた機械特性を保ち、過酷な使用環境で金属の代わりになるとする。用途は積層造形、航空宇宙、自動車、ヘルスケア、石油・ガス、半導体Syensqo[11]
航空宇宙Victrex は、PEEK と PAEK 系ポリマーは金属、熱硬化樹脂などを置き換え、軽量化、バイ・トゥ・フライ比の改善、部品統合の設計の自由度を与えるとする。アルミニウムとの比較で、射出成形でバイ・トゥ・フライ比が最大85%良いと同社のブログに記載。SABIC は ULTEM 1000 が航空機の FAR 25.853 に適合すると記載Victrex[16]
SABIC[8]
医療ASTM F2026 が、外科用インプラントや歯科機器に使う PEEK ポリマーの要件と試験法を規定する。Victrex の2025年度(9月期)の医療事業の売上は£58.8m(前年比5%減)、脊椎では米国を中心に膨張式・多孔質チタン製ケージへの移行が影響し、非脊椎の事業は7%増(非インプラント医療は12%増)ASTM[5]
Victrex[10]
半導体・電子Victrex は、PEEK製CMPリテーニングリングが PPS製より寿命が50%長く、ファブの生産性を最大3%高めうるとする(同社の主張)。APTIV フィルムは40億台超の携帯機器で使われたとする。PEEK部品は10万 rpm 超の回転での実績があるとも記載Victrex[9]
電子(LCP)コネクタ、アンテナ、カメラモジュールなど(第7章)Celanese[12]
Daicel[13]
自動車・産業(PPS)Toray は PPS(Torelina)を、自動車のエンジン周辺部品、産業機械部品、高温の電子機器部品に適するとし、連続使用温度は200〜240℃、融点は278℃、耐薬品性はフッ素樹脂に次ぐとするToray[7]

すべて各社・団体の公表資料の記載(事実)。「バイ・トゥ・フライ比85%」「寿命50%長い」「生産性3%」はVictrexが自社製品について述べた主張であり、本稿は検証していません。

明るい検査台に、同じ形のアルミと樹脂のブラケット、シリコンウェーハと太い樹脂のリング、黒い小さなコネクタ用ハウジングが並べられた概念イメージ
図6 概念図(AI生成イメージ)。金属の代わりに使われる樹脂部品や、半導体・電子分野の部品の例を、検査台に並べた場面として表現したものです。実際の製品・設計・材料の外観を示すものではありません。
医療用PEEKを読むときの注意
  • 「PEEKは生体適合」とは書かれていません。ASTM F2026 は、外科用インプラントや歯科機器の製造に使う PEEK ポリマーの材料としての要件と試験法を規定しており、加工(成形、切削、組立、滅菌)で特性が変わりうるため、製造した形態の特性は別に評価する、と明記しています事実[参考資料5]。
  • PEEK の脊椎・整形外科用インプラントとしての評価は、Kurtz と Devine の総説(Biomaterials, 2007)にまとめられています事実[参考資料24](題名で確認。本文は未確認のため、内容は引用していません)。
  • Victrex の年次報告書は、脊椎で米国を中心に PEEK から膨張式・多孔質チタン製ケージへの移行が続いていることを、医療売上減の要因に挙げています[参考資料10]。材料の優位性は固定したものではなく、デバイス設計の変化で需要が動きます(本記事による解説)。

9. 素材技術者の視点③:供給の集中をどう読むか

PEEK の調達で話題になるのが、供給元の少なさです。ここでは市場規模やシェアの推計を使わず、供給元の1社が自社の年次報告書に書いた内容に限って整理します。

Victrex plc 2025年度(9月期)の公表数値 同社の年次報告書の記載。グループ全体の数値で、ポリマー単体の価格ではない。 4,164 t 販売数量 前年度 3,731 t(+12%) £292.7m 売上高 前年度 £291.0m(+1%) £70/kg 平均販売価格 前年度 £78/kg 売上高 ÷ 販売数量 = 292.7百万ポンド ÷ 4,164 t = 約 £70.3/kg(公表の £70/kg と整合) 本稿の計算。医療部品・フィルム・複合材なども含むグループ平均 ※ 数値は Victrex plc Annual Report 2025[参考資料10]。会計年度は2025年9月期。 ※ 市場規模やシェアの推計ではなく、1社の開示数値。ASPの変動の約8割が製品構成と為替によると同社は説明。
図7 概念図(ベクター作図)。Victrex plc の2025年度(9月期)の公表数値[参考資料10]です。1社の開示数値であり、PEEK市場全体の規模やシェアを示すものではありません。売上高÷販売数量の計算は本記事によります。
項目Victrex plc の年次報告書(2025年度、9月期)の記載
販売数量グループで4,164トン(前年度3,731トン、+12%)。要因は VAR(付加価値再販業者)とエネルギー・産業向け
売上高・平均販売価格売上高 £292.7m(前年度 £291.0m)、平均販売価格 £70/kg(前年度 £78/kg)。変動の約8割は製品構成と為替による
供給の考え方「統合されたサプライチェーンと、世界水準の品質での最大の PEEK 生産能力」を持つ。現行の5か年計画に能力増強の投資は含まれていない
モノマーの製造UK の Rotherham にモノマー工場がある。年次報告書は、PEEK の気候への影響が業界平均より低いとする根拠に、UK のモノマーを使うことを挙げている
中国の工場立ち上がりが遅れ、年間換算の営業損失は £8m、前年比で £4m 悪化
供給のリスク主要リスクの一つに供給網を挙げ、生産設備の能力不足、品質不良、原料供給や輸送の制約で、世界の顧客への安定供給を損なうおそれがあると記載
大型案件複合管:PEEK 8トン/km(Petrobras 向け TechnipFMC の案件に関連)

すべて Victrex plc Annual Report 2025 の記載(事実)[参考資料10]。数値は同社全体(PEEK 以外のポリマー、フィルム、複合材、医療部品などを含む)のもので、ポリマー単体の価格ではありません。

本稿の計算:大型案件が供給量に占める大きさ
  • 売上高 £292.7m ÷ 4,164 t = 約 £70.3/kg(公表の £70/kg と整合)
  • 複合管の PEEK 使用量が 8 t/km なので、仮に 100 km 分を製造すると 800 t。これは同社の2025年度の販売数量 4,164 t の 約19%(800÷4,164)
  • 2025年度の増加分(4,164−3,731=433 t)は、8 t/km の管に換算して約54 km 分

本稿の計算 前提と限界:複合管の使用量は同社が示す1 kmあたりの値で、100 km という距離は規模感を見るための仮定です。実際の発注量や受注の見込みを示すものではありません。

素材技術者の読みどころ:PEEK は「小さな市場に、大きな案件が乗る」材料

4,000トン台という数量は、汎用樹脂と比べると桁が小さな規模です(本記事による解説)。そこに、複合管のような一つの案件が数%〜十数%の需要を生みうることが、上の計算でわかります。 同時に、需要の主因は用途の構造変化に左右されます。同じ報告書は、医療のうち脊椎で PEEK から他材料への移行が売上を減らしていることを明記しています[参考資料10]。

調達の観点では、次の確認が現実的です(本記事による解説)。

  • 供給元の数:PEEK には複数の供給元があります。本稿では、Victrex と、KetaSpire PEEK を供給する Syensqo[参考資料11]を確認できました。Daicel は PEEK ではなく PEK の SARPEK を製品群に挙げています[参考資料13]。ほかの供給元の有無・規模は、本稿では確認していません。
  • グレードの切り替えやすさ:ASTM D8033 は、PEEK の射出成形・押出材料の分類体系を定めていて、再生材の使用も要件を満たせば認めています[参考資料17]。ただし、医療用途では ASTM F2026[参考資料5]の要件に加え、製造者ごとの変更管理が必要になるため、供給元の切り替えは容易ではないと考えるのが自然です。
  • 原料(モノマー)の供給地:Victrex は UK でモノマーを製造しています[参考資料10]。地理的な集中は、BCP(事業継続計画)の観点で確認する価値があります。
PFAS に関する各社の記載

各社は、自社グレードの PFAS(有機フッ素化合物)に関する記載を公表しています。SABIC は ULTEM 1000 の特長に「PFAS を意図的に添加していない」ことを挙げ事実[参考資料8]、Victrex は自社サイトに「PFAS-Free PEEK Polymers」の項目を設け、Daicel は「全グレードが PFAS フリー」の特設ページを置いています[参考資料13]。 これらは各社の自己申告であり、定義や対象物質の範囲は資料ごとに異なりえます。PFAS の規制の動向と、フッ素樹脂との代替関係は、本シリーズの「フッ素樹脂とPFAS」編で詳しく扱います。

10. 未確定の点と、この記事が扱わなかったこと

本稿の調査範囲で確認できなかった点
  • 市場規模・シェア・生産能力:調査会社の推計は使わない方針のため扱っていません。Victrex の「最大の PEEK 生産能力」も同社の主張であり、第三者の確認は行っていません。
  • PEEK の他の供給元(Evonik、中国の各社など):本稿が開いた一次資料では確認できなかったため、記載していません。
  • PSU・PES の物性値:Syensqo のページは機能の記述が中心で、本稿の範囲では数値の技術データを開けなかったため、Tg などの値は記載していません。
  • LCP の融点・耐熱の数値:Celanese と Daicel のページは定性的な説明が中心でした。グレード別の数値は、各社のデータシートで確認する必要があります。
  • RTI(UL 746B)の定義の詳細:UL の規格本文は未確認です。本文の説明は一般的な理解にもとづく解説です。
  • Kurtz と Devine の総説の内容:題名で存在を確認しただけで、本文は未確認です。
  • Victrex の各主張(バイ・トゥ・フライ比、寿命、生産性):同社の自己申告で、本稿は検証していません。
  • リサイクル・バイオ由来:PEEK や PEI のリサイクルの実態は、本稿の調査範囲で一次情報を確認できませんでした(ASTM D8033 が再生材の使用を認めている点にとどめます)。
この記事のまとめ
  • 「耐熱温度」は指標で変わります。PEEK 450G は Tg 143℃、荷重たわみ温度 152℃、RTI 強度 240℃・電気 260℃、Tm 343℃です事実。
  • 無充填 PEEK は Tg を超えると急に軟らかくなります。175℃の曲げ応力は23℃の約12%です本稿の計算。
  • 充填材は Tg の上で効きます。荷重たわみ温度は 152℃ → 328〜336℃、代償は破断ひずみの低下(25% → 1.7〜3.0%)と異方性です事実。
  • 金型温度と Tg の関係が、結晶性(Tg より高い)と非晶性(Tg より低い)を分けます。
  • 供給は1社の数字で読みます。Victrex の2025年度(9月期)の販売数量は4,164トン、平均販売価格は£70/kgです事実。

11. 用語集

スーパーエンプラ
汎用エンプラより耐熱性・強度・耐薬品性が高い樹脂の呼び名。明確な定義はない。
PEEK
ポリエーテルエーテルケトン。エーテル・エーテル・ケトンの繰り返し単位を持つ半結晶性の樹脂。
PEI・PSU・PES
ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン。いずれも非晶性。
PPS
ポリフェニレンサルファイド。結晶性で、耐薬品性が高い。
LCP
液晶ポリマー。溶融しても分子が整列し、流れやすく、寸法精度が高い。
Tg(ガラス転移温度)
非晶部がガラス状からゴム状に変わる温度。結晶性樹脂でも剛性の落ち始めの目安。
Tm(融点)
結晶が融ける温度。結晶性樹脂の成形温度の下限の目安。
HDT(荷重たわみ温度)
一定の荷重で試験片が所定量たわむ温度(ISO 75)。
RTI(相対温度指数)
UL 746B の長期熱劣化に対する温度指標。特性ごと(衝撃、強度、電気)に定められる。
GF/CF
ガラス繊維/炭素繊維。充填材として剛性と耐熱(HDT)を高める。
異方性
方向によって物性が違うこと。繊維の配向や分子の整列で生じる。
PAEK・LMPAEK
ポリアリールエーテルケトン。LMPAEK は融点を下げたPAEK系ポリマー。
CMPリング
化学機械研磨(CMP)でウェーハを保持するリング。半導体製造に使う。
冷結晶化
低温の金型で急冷して結晶化が進まなかった成形品が、再加熱で結晶化すること。
バイ・トゥ・フライ比
購入した材料の質量と、完成部品の質量の比。小さいほど材料の無駄が少ない。

12. 参考資料(一次情報)

  1. Victrex Technical Data Sheet「VICTREX™ PEEK POLYMER 90P」2026年3月改訂(PDF) — cdn.victrex.com
  2. Victrex Technical Data Sheet「VICTREX™ PEEK POLYMER 450G」(PDF) — cdn.victrex.com
  3. Victrex Technical Data Sheet「VICTREX™ PEEK POLYMER 450GL30」(PDF) — cdn.victrex.com
  4. Victrex Technical Data Sheet「VICTREX™ PEEK POLYMER 450CA30」(PDF) — cdn.victrex.com
  5. ASTM ASTM F2026-23 Standard Specification for Polyetheretherketone (PEEK) Polymers for Surgical Implant Applications — store.astm.org
  6. 東レ TORELINA™ 技術資料「Basic Properties of TORELINA™」 — www.plastics.toray
  7. 東レ「TORELINA™ PPS resin」製品ページ — www.plastics.toray
  8. SABIC Technical Data Sheet「ULTEM™ Resin 1000」Revision 2026年6月25日(PDF) — materialfinder.sabic-specialties.com
  9. Victrex「PEEK polymers for Electronics」 — www.victrex.com
  10. Victrex plc Annual Report 2025(2025年9月期)(PDF) — wp-victrexplc-2020.s3.eu-west-2.amazonaws.com
  11. Syensqo「KetaSpire® PEEK Polyether Ether Ketone」 — www.syensqo.com
  12. Celanese「Liquid Crystal Polymer (LCP) | Vectra® & Zenite®」 — www.celanese.com
  13. Daicel「LAPEROS® LCP」製品ページ(High Performance Polymers SBU) — hpps.daicel.com
  14. Syensqo「Udel® P-1700 CL 2611 CMP」製品ページ(ポリスルホン) — www.syensqo.com
  15. Syensqo「Veradel® A-301 NT」製品ページ(ポリエーテルスルホン) — www.syensqo.com
  16. Victrex「PEEK for Aerospace Applications」 — www.victrex.com
  17. ASTM ASTM D8033-22 Standard Classification System for Poly(Ether Ether Ketone) (PEEK) Molding and Extrusion Materials — store.astm.org
  18. ISO ISO 11357-2:2020 Plastics — Differential scanning calorimetry (DSC) — Part 2: Determination of glass transition temperature and step height — www.iso.org
  19. ISO ISO 11357-3:2025 Plastics — Differential scanning calorimetry (DSC) — Part 3: Determination of temperature and enthalpy of melting and crystallization — www.iso.org
  20. ISO ISO 11359-2:2021 Plastics — Thermomechanical analysis (TMA) — Part 2: Determination of coefficient of linear thermal expansion and glass transition temperature — www.iso.org
  21. ISO ISO 75-2:2013 Plastics — Determination of temperature of deflection under load — Part 2: Plastics and ebonite — www.iso.org
  22. ISO ISO 527-1:2019 Plastics — Determination of tensile properties — Part 1: General principles — www.iso.org
  23. ISO ISO 62:2008 Plastics — Determination of water absorption — www.iso.org
  24. Kurtz, Devine“PEEK biomaterials in trauma, orthopedic, and spinal implants”, Biomaterials 2007, 28, 4845 — doi.org

13. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
PEEK 90P(粉体グレード):融点343℃、Tg(onset)143℃、溶融粘度(400℃)90 Pa·s、押出の溶融温度380〜400℃、乾燥120〜150℃・3〜5時間・含水率0.020%以下[参考資料 1]https://cdn.victrex.com/-/media/downloads/datasheets/victrex_tds_90p.pdf事実
PEEK 450G の値:Tg 143℃(onset)・150℃(中点)、融点343℃、荷重たわみ温度152℃(1.8 MPa、アニールなし)、RTI 180/240/260℃、曲げ応力 165/85/19/12.5 MPa(23/125/175/275℃)、線膨張係数(流れ方向 45/120、平均 55/140 ppm/K)、密度1.30、引張弾性率4,000 MPa・破断ひずみ25%、成形収縮率 1.3%・0.90%、吸水率(飽和)0.45%(23℃)・0.55%(100℃)、熱伝導率 0.29・0.32 W/m/K、溶融粘度(400℃)350 Pa·s、バレル温度355〜375℃、金型温度170〜200℃[参考資料 2]https://cdn.victrex.com/-/media/downloads/datasheets/victrex_tds_450g.pdf事実
PEEK 450GL30 の値:密度1.51、引張弾性率11,500 MPa、破断ひずみ3.0%、曲げ応力 275/190/80/50 MPa、荷重たわみ温度328℃、線膨張係数(流れ方向 18/18、平均 45/110 ppm/K)、成形収縮率 0.90・0.30%、溶融粘度550 Pa·s、バレル360〜385℃、金型180〜200℃[参考資料 3]https://cdn.victrex.com/-/media/downloads/datasheets/victrex_tds_450gl30.pdf事実
PEEK 450CA30 の値:密度1.40、引張弾性率28,000 MPa、破断ひずみ1.7%、曲げ応力 380/275/130/65 MPa、荷重たわみ温度336℃、線膨張係数(流れ方向 5/6、平均 40/100 ppm/K)、成形収縮率 0.50・0.10%、熱伝導率 0.95・2.0 W/m/K、体積抵抗率 1.0×10⁵ Ω·cm、溶融粘度675 Pa·s、バレル375〜395℃、金型180〜210℃[参考資料 4]https://cdn.victrex.com/-/media/downloads/datasheets/victrex_tds_450ca30.pdf事実
ASTM F2026 が、外科用インプラント・歯科機器に使う PEEK ポリマーの要件と試験法を規定し、PEEK を純粋な半結晶性ホモポリマー(繰り返し単位 EEK)と定義すること、加工で特性が変わりうるため製造した形態は別に評価すること[参考資料 5]https://store.astm.org/f2026-23.html事実
PPS(Torelina):融点約278℃、Tg約93℃(製品ページでは約90℃)、結晶化度約40〜60%、射出成形グレードの Mw 約2万〜6万、結晶が約290℃まで残りうるため成形温度は300℃以上が望ましいこと、低温金型では冷結晶化ピークが120〜130℃付近に現れること[参考資料 6]https://www.plastics.toray/technical/torelina/tec_029.html事実
Torelina の連続使用温度200〜240℃(強度が50%以上保たれる上限温度の定義)、荷重たわみ温度260〜270℃、耐薬品性はフッ素樹脂に次ぐこと、用途(自動車のエンジン周辺部品、産業機械部品、電子機器部品)[参考資料 7]https://www.plastics.toray/products/torelina/事実
ULTEM 1000:Tg 217℃、HDT 192℃(1.8 MPa)・209℃(0.45 MPa)、ビカット211℃、引張弾性率3,200 MPa、降伏応力110 MPa・破断ひずみ50%、線膨張係数52 ppm/K、密度1.27、吸水0.7%(平衡)・1.25%(飽和)、UL 94(V-0 0.75 mm以上、V-2 0.4 mm以上、5VA 3 mm以上)、LOI 47%、RTI 170℃、成形条件(乾燥150℃・4〜6時間・0.02%、溶融350〜410℃、金型135〜180℃)、FAR 25.853適合、PFASを意図的に添加していないこと[参考資料 8]https://materialfinder.sabic-specialties.com/document-download/69d81a01-36d8-eb11-810a-005056857ef3事実
Victrex の電子機器向けページ:APTIV フィルムが40億台超の携帯機器で使われたこと、PEEK製CMPリングの寿命が PPS より50%長く生産性を最大3%高めうること、10万 rpm 超での実績、連続使用の高温に最大260℃まで耐えること[参考資料 9]https://www.victrex.com/en/industries/electronics(同社の主張)事実
Victrex Annual Report 2025:販売数量4,164トン(前年度3,731トン)、売上高£292.7m、平均販売価格£70/kg(前年度£78/kg)、医療売上£58.8m(5%減)と脊椎での他材料への移行、Rotherham のモノマー工場、UKモノマーの使用、中国工場の立ち上がりの遅れと年間換算営業損失£8m、能力増強投資なし、供給網リスクの記載、複合管 PEEK 8トン/km[参考資料 10]https://wp-victrexplc-2020.s3.eu-west-2.amazonaws.com/media/2025/12/Victrex-plc-Annual-Report-2025.pdf事実
KetaSpire PEEK が最高240℃の連続使用温度で機械特性を保ち、過酷な環境で金属を置換できること、耐疲労性・耐薬品性、用途(積層造形、航空宇宙、自動車、ヘルスケア、石油・ガス、半導体)[参考資料 11]https://www.syensqo.com/en/brands/ketaspire-peek(同社の説明)事実
LCP が高度に結晶性・本質的に難燃・サーモトロピックであり、溶融中も分子が整列して溶融粘度が非常に低く、極薄肉を満たすこと、流れ方向の収縮がほとんどないこと、用途、Dk/Df を調整したグレード、Zenite 350 LDS の特徴[参考資料 12]https://www.celanese.com/products/lcp-vectra-zenite事実
LAPEROS LCP:全芳香族ポリエステル、p-HBA の単独重合体は溶融せず共重合が必要、薄いほど断面積あたりの強度が高い、線膨張係数が金属に近い、グレード(A130、E130i、E463i、E471i、E473i、S135、S471、S475)、DURAFIDE PPS・SARPEK PEK を製品群に含むこと、全グレードPFASフリーの特設ページ[参考資料 13]https://hpps.daicel.com/global/s/ProductInfo/laperoslcp?language=en_US(同社の説明)事実
Udel P-1700:PSU、最高149℃(300°F)の連続使用、酸化・加水分解に強い、繰り返し滅菌に耐える、極性溶剤(ケトン、塩素系、芳香族炭化水素)で侵されうる、FDA 21 CFR 177.1655 適合[参考資料 14]https://www.syensqo.com/en/product/udel-p-1700-cl-2611-cmp事実
Veradel A-301:透明な非晶性PESU、高い荷重たわみ温度・靭性・寸法安定性、本質的な難燃性、FDA適合・食品直接接触、以前は Radel A[参考資料 15]https://www.syensqo.com/en/product/veradel-301-nt事実
Victrex の航空宇宙向けページ:金属・熱硬化樹脂の置換、軽量化、バイ・トゥ・フライ比の改善(アルミニウム比で最大85%良いとする同社のブログ)、PEEK 450G、LMPAEK[参考資料 16]https://www.victrex.com/en/industries/aerospace(同社の主張)事実
ASTM D8033 が PEEK の射出成形・押出材料の分類体系であり、要件を満たす再生材の使用を認めること[参考資料 17]https://store.astm.org/d8033-22.html事実
ISO 11357-2 がガラス転移温度、ISO 11357-3 が融解温度とエンタルピー、ISO 11359-2 が線膨張係数、ISO 75-2 が荷重たわみ温度、ISO 527-1 が引張特性、ISO 62 が吸水を規定していること(題名と適用範囲にとどめる。本文は有料)[参考資料 18]https://www.iso.org/standard/77310.html[参考資料 19]https://www.iso.org/standard/88106.html[参考資料 20]https://www.iso.org/standard/81835.html[参考資料 21]https://www.iso.org/standard/55653.html[参考資料 22]https://www.iso.org/standard/75824.html[参考資料 23]https://www.iso.org/standard/41672.html事実
PEEK の脊椎・整形外科用インプラントの評価を扱った総説が存在すること(題名のみ確認。本文は未確認)[参考資料 24]https://doi.org/10.1016/j.biomaterials.2007.07.013事実
Tm−Tg(PEEK 200 K、PPS 185 K)。PEEK 450G の曲げ応力保持率(175℃:12%、125℃:52%)、GL30(29%、69%)、CA30(34%、72%)。弾性率の倍率(2.9倍、7.0倍)、比弾性率(約3.1、7.6、20.0 GPa÷g/cm³)、HDT−Tg(+9、+185、+193 K)、線膨張係数の異方性(約2.5倍、8倍)本稿の計算。公表値の比と差。「平均」の線膨張係数は資料に定義がなく、方向の平均と読んだ解釈。3グレード・各社の値は別製品・別条件のため目安本稿の計算
PEEK 450G のノズル温度375℃と押出400℃の融点超過(+32 K、+57 K)、PEI の溶融温度と Tg の差(+133〜193 K)、PEI と PEEK の HDT 差(40 K)・Tg 差(74 K)本稿の計算。公表値の差。PEIとPEEKは別メーカー・別条件の値のため目安本稿の計算
売上高÷販売数量=約£70.3/kg、複合管100 km 分の PEEK 800 t が2025年度販売数量の約19%、2025年度の増加分433 t が複合管約54 km 分本稿の計算。複合管 8 t/km は Victrex 年次報告書の記載で、100 km は規模感を見るための仮定。実際の受注量ではない本稿の計算
スーパーエンプラに明確な定義がないという整理。結晶性・非晶性・液晶性の3分類。RTI の説明、金型温度と Tg の関係(結晶化の有無)、充填材が Tg を超えた領域で効くという解釈、成形温度窓の読み取り、非晶性と結晶性の使い分け、LCP の異方性、供給元の切り替え・原料の地理的集中の確認点、PEEK の4,000トン台という規模感公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各社・各機関が表明した見解ではない解説
市場規模・シェア・生産能力、PEEK の他の供給元、PSU・PES の数値、LCP の融点・耐熱の数値、RTI の規格本文、PEEK・PEI のリサイクルの実態本稿の調査範囲で一次情報を確認できなかった、あるいは扱わない方針のため記載していない解説
図1・図2・図3・図4・図5・図7が説明のための作図であること。ヒーロー画像と図6がAI生成イメージであること本記事による注記解説

最終更新:2026年10月2日/出典は一次情報(メーカーの技術データシート・製品ページ、Victrex plc の年次報告書、ASTM・ISO、査読論文)に限定しています。 物性値はメーカー公称の代表値であり、グレード・試験法・測定条件が異なるため、数値の優劣を比べるものではありません。 企業の数字は、その企業が自社の開示資料に書いたものに限り、会計年度と通貨を明記しています。市場規模・シェアの推計は使っていません。 構造の整理や材料設計上の読み取りを含むため、それらは「解説」として出典付きの事実と区別しています。 市場規模・シェア・生産能力、PEEKの他の供給元、PSU・PESの数値、LCPの融点・耐熱の数値、RTIの規格本文、Kurtz と Devine の総説の内容、PEEK・PEIのリサイクルの実態については、公開された一次情報で確認できなかった、あるいは扱わない方針のため記載していません。 図1・図2・図3・図4・図5・図7はベクター作図、ヒーロー画像と図6はAI生成イメージであり、いずれも実際の分子配置・製品の実物を示すものではありません。