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シリコンウェア・プレシジョン・インダストリーズ(SPIL)|半導体後工程 企業解説

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COMPANY PROFILE / 半導体後工程

シリコンウェア・プレシジョン・インダストリーズ(SPIL)(矽品精密工業)
― 数字が消えた、世界3位のOSAT

SPILは台湾のOSATで、かつては台湾とNASDAQの両方に上場していた独立企業でした。 いまはASE Technology Holdingの100%子会社で、 2024年3月を最後に単独の業績公表をやめています。 規模で言えばAmkorに迫る第3位級の会社が、外から見えなくなったということです。 この記事は、消える前に何が公表されていたかを一次情報から復元し、 いまASEグループの中でどういう位置にいるのかを、確認できる範囲だけで示します。

構成:SPILの年次報告書(2021年版)・月次売上公表・公式サイト、親会社ASEの米国SEC提出書類(2025年度 Form 20-F)、SPIL自身の過去のForm 20-Fを一次情報として使用/最終更新 2026年9月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるSPIL(基本データ)
  2. ロゴと社名の表記について
  3. 何をしている会社か ― ASEに買われるまでと、買われてから
  4. 企業規模 ― 公表が止まるまでの5年間の売上高
  5. 企業カテゴリーと、後工程業界での立ち位置
  6. 拠点と工場のある国
  7. 半導体後工程における主力製品とシェア
  8. 直近の投資計画
  9. 提携している大手企業
  10. 今後のこの分野における存在感
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるシリコンウェア・プレシジョン・インダストリーズ(SPIL)

正式名称Siliconware Precision Industries Co., Ltd.中国語表記:矽品精密工業股份有限公司/日本語では「矽品(せきひん)精密工業」
本社の所在国台湾(中華民国)台中市潭子区大豐路三段123号
設立1984年5月ASE(1984年3月)とほぼ同時期に生まれた同業
上場非上場1993年4月に台湾証券取引所、2000年6月にNASDAQ(SPIL)へ上場したが、2018年に両方とも終了
直近の年間売上NT$1,132億
(2023年)
単独で公表された最後の年間売上。2024年以降は非公表
従業員数約32,000人公式サイトの記載。時点は明示されていない
企業カテゴリーメーカー
(OSAT/ASEの完全子会社)
親会社ASEの後工程事業の一翼
直近の投資計画単独では非開示親会社ASEの2025年設備投資NT$1,716億の中に含まれる
この記事を読む前に:情報の性質が他の2社と違います

TSMC、ASE、Amkorの記事で使った数字は、すべていま現在の法定開示書類から取りました。 SPILは違います。同社は2018年4月30日にASE Technology Holdingの完全子会社となり、 2018年5月に米国SECへの登録を終了、そして2024年3月11日発行の月次売上公表を最後に、 単独の業績公表を停止しています 事実。 親会社ASEの20-Fも、SPILを「完全子会社」と記載するだけで、SPIL単独の売上や利益は開示していません。 したがって本稿の財務数値は、最新でも2023年(売上のみ)、 利益や従業員の内訳は2021年が最後です。 この制約を隠さずに書くのが、この記事の方針です。

2. ロゴと社名の表記について

SPILのロゴは同社の登録商標です(親会社ASEの20-Fにも「SPIL」が台湾で登録商標であると明記されています)。 本稿では生成画像やイラストによる再現は行わず、 掲載する場合は公式サイトから取得した正規のロゴ画像を上の枠に設置してください 事実。

表記の特徴:英語の略称は SPIL、中国語の通称は矽品。 「矽」はケイ素(シリコン)を表す漢字で、社名そのものが「シリコンの精密加工」を意味しています。 なお同社のWebサイトは spil.com.tw から spilglobal.com へ移っており、 旧アドレスは現在リダイレクトされます。

公式サイト:https://www.spilglobal.com/About/Overview

3. 何をしている会社か ― ASEに買われるまでと、買われてから

SPILの本業はASEやAmkorとまったく同じ、後工程の受託です。 公式サイトは自社のサービスを「ウェハバンプ、ウェハテスト、ICパッケージ、ICテスト、直接配送までのワンストップ」 と説明しています 事実。 ここだけ見れば、この記事はASEの記事と同じ話になります。 SPILを単独で扱う意味は、この会社が「独立したOSATが消えていく過程」そのものだからです。

統合までの経緯

時期出来事
1984年5月設立
1993年4月台湾証券取引所に上場
2000年6月NASDAQにADS(1 ADS=普通株5株)を上場、銘柄コード「SPIL」
2015年8〜9月ASEが第1次公開買付。普通株7億7,900万株を1株NT$45で買い付け
2015年12月〜2016年3月ASEが第2次公開買付(1株NT$55)。台湾公正取引委員会の承認が期限までに得られず失効
2016年6月30日ASEとSPILが共同株式移転契約を締結
2017年11月中国商務部独占禁止局が条件付きで統合を承認
2018年4月30日株式交換が完了。ASEとSPILがそろってASE Technology Holdingの完全子会社になる
2018年5月2日SPILが米国SECにForm 15を提出し、米国での登録を終了
2024年3月・4月最後の月次売上公表(3月11日発行)。台湾当局がASEとSPILの公開発行の終了を承認

注目すべきは買収の形です。ASEはSPILを吸収合併したのではありません。 ASEとSPILの上に新しい持株会社(ASE Technology Holding)を作り、 両社を対等に並べてその下にぶら下げたのです 事実。 ASEの20-Fも「ASEHはASE Group、SPIL Group、USI Groupを直接支配する」と、 SPILをASEと並列に書いています。 このため統合後もSPILは別法人・別ブランド・別工場群として動き続けており、 ASEに吸収されて消えたわけではありません。

素材技術者の視点:「ASEに売り込めばSPILにも通る」わけではない

持株会社方式の統合は、材料の商談にそのまま効いてきます。 SPILは台中・彰化・雲林・新竹に独自の工場群を持ち、 2021年時点でワイヤボンダー10,634台、テスター1,521台を単独で運用していました 事実。 同じ時期のASEグループ全体(2026年1月時点でワイヤボンダー25,001台、テスター7,456台)と比べると、 SPILがグループの設備の相当部分を占めていたことが分かります 本稿の計算。 法人が別で工場が別なら、材料の認定プロセスも別に走るのが普通です。 「ASEグループに採用された」という実績が、そのままSPILの工場で通るとは限らない—— これは後工程の材料を扱う上で実務的に重要な点です。

4. 企業規模 ― 公表が止まるまでの5年間の売上高

SPIL 年間売上高の推移(NT$ 十億) SPIL自身が公表した連結売上高。括弧内は前年比 160 120 80 40 0 89.0 (前年比 +1.8%) 102.0 (前年比 +14.7%) 107.8 (前年比 +5.7%) 130.8 (前年比 +21.3%) 113.2 (前年比 -13.5%) 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年3月を最後にSPILは単独の月次売上公表をやめた。2024年以降の単独売上は存在しない
図1 SPILの年間売上高(2019〜2023年)。出典:SPILの月次売上公表(各年12月分に通年値が記載)および2021年版年次報告書。他社の記事と異なり、この図の右端は2023年です。2024年以降の数字は公表されていません。
年売上高(NT$百万)営業利益(NT$百万)当期純利益(NT$百万)1株当たり利益(NT$)
2017年83,5548,6756,9002.21
2018年87,4179,1987,6902.38
2019年88,9889,1087,5112.24
2020年102,03612,36811,4963.15
2021年107,83920,70817,7164.85
2022年130,787非開示非開示非開示
2023年113,166非開示非開示非開示

※2017〜2021年は2021年版年次報告書の「最近5年間の連結損益計算書」から。監査済みの数字です。2022年・2023年の売上高は月次売上公表の12月分に記載された通年値で、利益は公表されていません。2024年以降は売上高も公表されていません。

この表で目を引くのは2021年の利益の跳ね方です。 売上は前年比+5.7%にとどまったのに、営業利益はNT$124億→NT$207億へ67%増、 純利益はNT$115億→NT$177億へ54%増になっています 本稿の計算。 売上総利益率も21.9%から27.9%へ上がっており、 半導体不足のさなかで単価と稼働率が同時に上がった年だったことが読み取れます。 そしてその翌年の2022年に売上が過去最高のNT$1,308億に達した直後、 2023年は−13.5%の減収。後工程の循環の振れ幅がそのまま出ています。

従業員の構成(2021年が最後の開示)

職種2020年末2021年末2022年2月28日
エンジニア8,1958,1638,170
管理職1,7372,0952,201
事務職1,0731,0841,083
オペレーター(製造現場)11,31511,70311,178
合計22,32023,04522,632

※2021年末の平均年齢36.2歳、平均勤続年数8.3年。学歴構成は博士0.1%、修士6.2%、学士・短大54.6%、高卒35.2%、その他3.9%。TSMCの「修士以上が過半」とは正反対の構成で、後工程が現場作業に支えられていることがよく分かります。

公式サイトは現在「全世界で約32,000名」としています 事実。 2021年末の23,045人からは約9,000人の増加にあたりますが、 公式サイトの記載には時点が示されていないため、いつの数字かは確認できません 未確定/将来。

5. 企業カテゴリーと、後工程業界での立ち位置

カテゴリーはメーカー(OSAT)ですが、独立企業ではなくASEグループの一部門相当です。 グループの中でどれくらいの重さを持つのかを、確認できる数字で見ます。

2023年 ASEグループ売上高 NT$5,819億 の中でのSPIL 比較できる最後の年が2023年。SPILの数字はSPIL自身の連結売上で、定義が完全には一致しない SPIL 19.4% ASEの他の後工程 33.3% EMS 46.1% ASEグループの後工程(ATM)NT$3,067億 SPILはASEグループの後工程売上の約37%にあたる SPILの連結売上にはグループ内取引が含まれる可能性があるため、この比率は目安である 右端の細い帯(1.2%)は基板生産や不動産などの「その他」セグメント ASEグループはSPIL単独の売上を法定開示書類で開示していない
図2 2023年のASEグループ売上高の中でのSPILの位置。出典:ASEの2025年度Form 20-F(2023年のセグメント別売上)とSPILの月次売上公表。本稿の計算(2つの別々の開示を突き合わせた概算。ASE側はSPIL分を別掲していない)。
3社の序列を整理する

この連載の3社を、後工程の売上規模だけで並べると次のようになります 本稿の計算。

会社後工程の年間売上時点備考
ASEグループ(ATM)NT$3,802億(US$121億)2025年SPILを含むグループ全体の後工程
AmkorUS$67億2025年全社が後工程。米国本社
SPILNT$1,132億(2023年)2023年ASEグループの内数。2024年以降は非公表

※為替レートが年・社で異なるため、通貨をまたいだ厳密な順位づけはできません。ただしSPILの2023年売上NT$1,132億は、同年のASEグループATM売上NT$3,067億の約37%にあたり、単独で見ればAmkorに迫る規模であったことは確かです。SPILが独立企業のままであれば、世界3位級のOSATとして数えられていたはずです 未確定/将来。

6. 拠点と工場のある国

拠点は台湾・中国・米国の3か国です。台湾への集中度は、ASEやAmkorよりさらに高くなっています 事実。

国・地域拠点役割
台湾(台中)大豐(本社)、中山、中科(大雅)、潭科、中工(西屯)、后里中核。本社の大豐工場を中心に台中市内に6拠点が集まる
台湾(彰化)彰化(和美)、中科二廠(二林)二林は中部サイエンスパーク内の拡張拠点
台湾(雲林)虎科(虎尾)雲林県への展開拠点
台湾(新竹)新竹一廠、新竹三廠、介壽A棟新竹サイエンスパーク内。前工程ファウンドリの近傍
中国蘇州(Siliconware Technology (SuZhou) Limited)組立・検査。親会社ASEの20-Fでは床面積2,171千sq.ft.
米国カリフォルニア州サンノゼ(Siliconware USA, Inc.)営業・技術サポート拠点

親会社ASEの20-Fは、SPILの台湾拠点(台中・彰化・雲林・新竹)の床面積を合計11,429千sq.ft.と記載しています。 これはASE本体の高雄工場(10,795千sq.ft.)より広いのです 事実。 グループ内で「子会社」として扱われていても、物理的な規模ではASE本体と並ぶ—— SPILを単なる一部門と見てはいけない理由がここにあります。

素材技術者の視点:台湾の中でも「内陸側」に寄っている

ASEの主力が高雄(南部の港湾都市)、TSMCの先端パッケージングが台南(南部サイエンスパーク)なのに対し、 SPILの重心は台中・彰化・雲林という中部です 事実。 さらに2021年以降、二林(彰化)、潭科(台中)、后里(台中)、虎尾(雲林)と 中部での新拠点が次々に加わっています。 材料の納入・技術サポートという実務から見れば、 台湾のOSAT向け営業は「南部(ASE・TSMC)」と「中部(SPIL)」で動線が分かれるということです。 同じ台湾でも、新竹・台中・台南・高雄では物流も人の行き来も別勘定になります。

7. 半導体後工程における主力製品とそのシェア

製品構成(2021年が最後の開示)

2021年 売上高 NT$1,078億 の内訳 上段が事業別、下段が顧客別。これが最後に公表された内訳である パッケージング 82.6% 15.3% テスト 顧客A 18.8% 顧客B 14.9% その他の顧客 66.3% 事業別の残り2.1%は「その他」。国内向け26.0%、海外向け74.0%という内訳も公表されていた 顧客は年次報告書でもAとBの記号のみで、社名は開示されていない 2020年は10%超の顧客が3社あり、最大のC社が26.7%を占めていた
図3 2021年の売上構成。出典:SPIL 2021年版年次報告書。本稿の計算(金額から比率を算出)。テスト比率15.3%はASEグループ全体の11.1%(2025年)より高く、SPILが検査寄りの構成であったことを示す。

技術:2.5Dもファンアウトも持っていた

SPILは統合前後を通じて、先端パッケージの量産実績を積み上げています 事実。

2.5Dプラットフォーム
2017年4月に量産開始。シリコンインターポーザ上に複数チップを並べる方式で、TSMCのCoWoSと同じ土俵。
HBW-PoP
2016年9月に量産開始。広帯域のパッケージ・オン・パッケージ(パッケージを縦に重ねる方式)。
AiP-SiP
2018年12月に28/39GHz帯、2020年1月に大型アンテナアレイ対応品を量産開始。5Gミリ波向けのアンテナ内蔵パッケージ。
FO-MCM
2020年5月に量産開始。ファンアウト方式で複数チップを1パッケージに載せるモジュール。
FO-EB
2021年3月に量産開始。ファンアウトにシリコンブリッジを埋め込み、チップ間を高密度に結ぶ方式。
FCCSP/FCBGA
フリップチップ系の主力製品群。5nmウェハを使うFCCSPは2019年7月に量産開始。FCBGAは11mm角から89×98mmまで対応。

2021年の研究開発費はNT$43.9億で、売上の4.1%にあたります 本稿の計算。 同年のASEグループ全体(NT$210.5億、売上の3.7%)と比べると、 売上比では SPIL のほうが研究開発に厚かったことになります。

シェアについて ― ここは正直に書きます

確認できなかったこと

SPILの世界シェアを示す一次情報は存在しません。 2021年版年次報告書にも自社シェアの数値はなく、 「後工程受託の上位3社は2022年の拡張計画に前向きかつ慎重に取り組むだろう」という 業界観の記述があるだけです 事実。 さらに2022年以降は事業別・顧客別・地域別の内訳そのものが公表されていません 未確定/将来。 調査会社や報道の推計値は本稿では採用しません。

8. 直近の投資計画

単独の投資計画非開示2022年以降、SPIL単独の設備投資額は公表されていない
親会社の2025年設備投資NT$1,716億うち96.2%が後工程向け。SPIL分は別掲されていない
親会社の未執行契約NT$1,352億2025年末時点。こちらもSPIL分は不明
公式に確認できる拡張中部の新拠点二林・潭科・后里・虎科が公式サイトの拠点一覧に追加されている

SPILの投資計画について、金額で語れる一次情報はありません 未確定/将来。 親会社ASEの20-Fは設備投資をセグメント(パッケージング/テスト/EMS/その他)でしか分けておらず、 SPILとASE本体の内訳は示していません。

金額の代わりに確認できるのは拠点の増加です。 2021年版年次報告書の沿革には、2021年4月に中部サイエンスパーク二林園区への投資(中科二廠)、 2021年10月に台中潭子科技産業園区の新工場取得(潭科廠)が記載されています 事実。 さらに現在の公式サイトの拠点一覧には、年次報告書の時点にはなかった 后里廠(台中市后里区)と虎科廠(雲林県虎尾鎮)が載っています 事実。 金額は分からないが、拠点の数は増え続けている—— これが一次情報から言える範囲のすべてです。

素材技術者の視点:開示が止まった会社をどう追うか

SPILのように単独開示が止まった相手を追う手がかりは、財務以外に3つあります。 (1)公式サイトの拠点一覧の増減、(2)親会社の法定開示書類に載る床面積や設備台数、 (3)求人です。 このうち(1)と(2)は本稿でも使いました。 ASEの20-FにあるSPILの台湾床面積11,429千sq.ft.という数字は、 子会社の規模を親会社の開示から逆算できる数少ない手がかりです。 逆に言えば、非上場化した後工程企業の設備投資は、材料メーカー側から事前に読みにくくなる。 統合が進むほどこの見えにくさは増していきます 未確定/将来。

9. 提携している大手企業

種類相手内容一次情報の有無
親会社ASE Technology Holding2022年2月28日時点でSPILの発行済株式3,651,748,878株の100%を保有する唯一の株主。株主数は1(法人1社のみ)SPIL 2021年版年次報告書 事実
兄弟会社ASE(日月光半導体製造)、USI(環旭電子)SPILの公式サイトが「ASE、USIとともにASE投資控股の傘下にある」と明記SPIL公式サイト 事実
子会社Siliconware Technology (SuZhou)、Siliconware USA、Siliconware Precision Malaysia、Siliconware InvestmentASEの20-Fの子会社一覧に、SPILを出資元とする各社が記載されているASE 2025年度Form 20-F 事実
過去の提携―統合前のSPILは独立系として多数の顧客と取引していたが、顧客名は一度も開示されていない(年次報告書でもA・B・Cの記号表記)SPIL 2021年版年次報告書 未確定/将来
TSMCとの関係について

ASEの記事では「1997年以来、ASEがTSMCの非独占の優先パッケージング供給者に指定されている」と書きました。 この提携はASE Inc.とTSMCの間のもので、ASEの20-Fにそう記載されています。 SPILとTSMCの個別の提携関係は、本稿で調べた一次情報の範囲では確認できませんでした 未確定/将来。 SPILの新竹工場は新竹サイエンスパーク内にあり、地理的にはTSMCの主力ファブの至近ですが、 それを提携の根拠にはできません。

10. 今後のこの分野における存在感

事実として確定していること

事実後工程への含意
2024年3月を最後に単独の業績公表が止まった外部から業績を追う手段がなくなった。判断材料は親会社の数字だけになる
2023年時点でASEグループ後工程売上の約37%を占めていたグループ内で無視できない大きさ。ASEの数字の3分の1強はSPIL由来と見てよい
台湾の床面積11,429千sq.ft.はASE本体の高雄工場より広い統合後も独自の生産基盤を維持している
2021年以降、二林・潭科・后里・虎科と中部で拠点が増えた拡張は継続している
2017年に2.5D、2021年にFO-EBを量産開始先端パッケージの技術資産をグループに持ち込んでいる
持株会社方式で統合され、別法人として存続している吸収合併とは異なり、工場も認定プロセスも別に走り続ける

見通し

未確定/将来 上の事実から素直に読めば、SPILは「ブランドとしては薄まり、生産能力としては残る」方向です。 単独の開示が止まったことで、業界の記事や統計からSPILの名前は徐々に消えていきます。 一方で、台湾中部に広がる工場群と2万人超の人員は、そのままASEグループの後工程能力として働き続けます。 AI向けの需要がOSATに波及する局面では、ASEグループの増産余力の相当部分をSPILの拠点が担う と見るのが、床面積と拠点数から見て自然です。

未確定/将来 読者にとっての実務的な含意は、「SPILを単体の会社として追うのをやめ、ASEグループの中部拠点群として扱う」 という切り替えだと考えます。 材料や装置の商談では別法人・別認定として動くが、 投資判断や市場規模の話ではASEの数字に含めて数える——この二重の扱いが現実に即しています。 なお、SPILが今後再び単独開示を始める可能性はありますが、 現時点でそれを示す一次情報はありません。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容裏づけとなる数字
情報開示の断絶2024年3月以降、業績も投資計画も公表されていない。取引先・材料サプライヤーにとって与信や設備計画の判断材料が乏しい最後の月次売上公表は2024年3月11日発行の2月分
顧客集中2021年は上位2社で売上の33.7%、2020年は10%超の顧客が3社あり最大のC社で26.7%。年ごとに構成が大きく動いている2021年A 18.8%+B 14.9% 本稿の計算
市況の循環性2022年に過去最高のNT$1,308億を記録した翌年、2023年は−13.5%の減収。後工程の振れ幅をそのまま受ける2022年NT$1,308億→2023年NT$1,132億
地理的集中生産拠点は台湾と中国蘇州のみ。ASEが17か国、Amkorが8か国に工場を持つのに比べ、分散はほとんど進んでいない公式サイトの拠点一覧 本稿の計算
統合に伴う訴訟2015〜2016年のSPIL公開買付をめぐるインサイダー取引の刑事事件が現在も係属中。2026年2月11日に台湾高雄地方法院が役員1名に無罪判決、3月2日に検察が控訴したASE 2025年度Form 20-Fに記載。結果は未確定
グループ内での位置づけ投資配分も顧客割り当ても親会社の判断に委ねられる。SPIL単独の意思決定として外部から観測できるものはないASEHが議決権の100%を保有

12. 用語集

OSAT
Outsourced Semiconductor Assembly and Test。半導体の後工程(組立・検査)を専門に受託する会社。SPIL、ASE、Amkorなど。
株式移転(共同株式移転)
2社の上にひとつの持株会社を新設し、両社をその完全子会社にする組織再編。吸収合併と違い、両社は別法人として存続する。
公開買付(TOB)
買収者が価格と期間を公表して市場外で株式を買い集める手続き。ASEは2015年にSPILに対して2度実施した。
Form 15
米国SECへの登録を終了するための届出。提出すると年次報告書(20-F)などの提出義務が止まる。
公開発行の終了
台湾の制度で、上場廃止後も残る一般向けの開示義務を終わらせる手続き。ASEとSPILは2024年3月・4月に承認を受けた。
2.5D
シリコンインターポーザという中間基板の上に複数のチップを並べ、高密度に配線する方式。SPILは2017年4月に量産を開始した。
FO-EB
Fan-Out Embedded Bridge。ファンアウトの再配線層に小さなシリコンブリッジを埋め込み、チップ間を高密度につなぐ方式。
AiP
Antenna in Package。アンテナをパッケージの中に作り込む方式。5Gのミリ波端末で必要になる。
概念図:独立した工場群が、持株会社という一つの枠の下に並べて置かれる様子(AI生成による概念図)AI生成・概念図
図4 SPILとASEグループの関係の概念図(AI生成による概念図。実際の工場配置や設備を写したものではありません)。

13. 出典

  1. SPIL 2021 Annual Report(2021年版年次報告書、英語版)。設立年月、本社住所、株主構成(ASEHが100%保有)、2017〜2021年の連結損益計算書と貸借対照表、従業員の職種別・学歴別構成、事業別・地域別売上、10%超の顧客の金額と比率、ワイヤボンダー・テスター台数、研究開発費、技術の量産開始年、沿革。https://www.spilglobal.com/Files/reports/2286/110英文年報-EN.pdf
  2. SPIL Monthly Sales Report ― December 2023(2024年1月9日発行)。2023年通年の連結売上高 NT$113,166百万、前年比−13.5%、2022年通年 NT$130,787百万。https://www.spilglobal.com/Files/reports/Monthly_Sales/2023/Monthly revenue Dec 2023 ENG.pdf
  3. SPIL Monthly Sales Report ― February 2024(2024年3月11日発行)。SPILが公表した最後の月次売上。2024年2月の連結売上高 NT$8,054百万。https://www.spilglobal.com/Files/reports/Monthly_Sales/2024/Monthly revenue Feb 2024 ENG.pdf
  4. SPIL Financials(公式サイトの財務情報ページ)。月次売上公表の一覧。2015年から2024年2月までで止まっていることの確認に使用。https://www.spilglobal.com/Finance
  5. SPIL Company Profile(公式サイトの会社概要)。設立1984年5月、本社住所、資本金、従業員約32,000人、2023年の売上約NT$1,132億、ASE投資控股傘下という位置づけ、提供サービス。https://www.spilglobal.com/About/Overview
  6. SPIL Location and Contact(公式サイトの拠点一覧)。台湾12拠点、中国蘇州、米国サンノゼの所在地。https://www.spilglobal.com/About/Locations
  7. ASE Technology Holding Form 20-F for the fiscal year ended December 31, 2025(米国SEC提出、2026年4月1日)。SPILの完全子会社化の経緯、公開発行の終了時期、SPILの工場所在地と床面積、SPIL系子会社の一覧、2023年のセグメント別売上、グループの設備投資、訴訟。https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1122411/000119312526135585/d50802d20f.htm
  8. SPIL Form 20-F for the fiscal year ended December 31, 2017(米国SEC提出、2018年3月27日)。SPILが単独で提出した最後の年次報告書。台湾証券取引所への上場(1993年4月)、NASDAQへのADS上場(2000年6月、1 ADS=普通株5株)、ASEとの株式交換契約の内容。https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1111759/000119312518096596/d447435d20f.htm
  9. SPIL Form 15-12G(米国SEC提出、2018年5月2日)。米国での登録終了の届出。https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1111759/000119312518147418/d570294d1512g.htm
  10. 米国SEC EDGAR XBRL companyfacts API(CIK 0001111759)。2015〜2017年の売上高・営業利益・研究開発費・設備投資(SPILの最後の20-Fから抽出された値)。https://data.sec.gov/api/xbrl/companyfacts/CIK0001111759.json

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称、本社住所、設立1984年5月、資本金、従業員約32,000人、2023年の売上約NT$1,132億、ASE傘下という位置づけ事実出典5https://www.spilglobal.com/About/Overview
台湾証券取引所上場(1993年4月)、NASDAQ「SPIL」上場(2000年6月、1 ADS=普通株5株)事実出典8https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1111759/000119312518096596/d447435d20f.htm
2015〜2018年の統合の経緯(2度の公開買付、株式交換、2018年4月30日の完全子会社化)、2024年3月・4月の公開発行終了事実出典7https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1122411/000119312526135585/d50802d20f.htm
2018年5月2日に米国での登録を終了事実出典9https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1111759/000119312518147418/d570294d1512g.htm
2017〜2021年の売上高・営業利益・当期純利益・1株当たり利益、従業員の職種別・学歴別構成、平均年齢36.2歳・平均勤続8.3年事実出典1https://www.spilglobal.com/Files/reports/2286/110英文年報-EN.pdf
2022年 NT$130,787百万、2023年 NT$113,166百万(前年比−13.5%)事実出典2https://www.spilglobal.com/Files/reports/Monthly_Sales/2023/Monthly revenue Dec 2023 ENG.pdf
単独の業績公表が2024年3月11日発行分を最後に止まっている事実出典3・4https://www.spilglobal.com/Finance
2021年の営業利益+67%・純利益+54%、売上総利益率21.9%→27.9%、研究開発費比率4.1%本稿の計算出典1の金額から算出https://www.spilglobal.com/Files/reports/2286/110英文年報-EN.pdf
2021年の事業別構成(パッケージング82.6%/テスト15.3%/その他2.1%)、国内26.0%/海外74.0%、顧客A 18.8%・B 14.9%、2020年のC社26.7%本稿の計算出典1の金額から比率を算出https://www.spilglobal.com/Files/reports/2286/110英文年報-EN.pdf
2021年末のワイヤボンダー10,634台・テスター1,521台、研究開発費NT$43.9億事実出典1https://www.spilglobal.com/Files/reports/2286/110英文年報-EN.pdf
技術の量産開始年(2.5D 2017年4月、AiP-SiP 2018年12月、FO-MCM 2020年5月、FO-EB 2021年3月、5nm FCCSP 2019年7月)、二林・潭科への投資(2021年)事実出典1の沿革https://www.spilglobal.com/Files/reports/2286/110英文年報-EN.pdf
台湾12拠点+蘇州+サンノゼ、后里廠・虎科廠の存在事実出典6https://www.spilglobal.com/About/Locations
SPILの台湾床面積11,429千sq.ft.(ASE本体の高雄工場10,795千sq.ft.より広い)、蘇州2,171千sq.ft.事実出典7の工場一覧https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1122411/000119312526135585/d50802d20f.htm
図2:2023年のASEグループ売上に占めるSPILの比率19.4%、ASE後工程に占める約37%本稿の計算出典7の2023年セグメント別売上と出典2のSPIL売上を突き合わせて算出。定義が完全には一致しないため概算https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1122411/000119312526135585/d50802d20f.htm
ASEHがSPIL株式3,651,748,878株の100%を保有、株主数は1事実出典1(2022年2月28日時点)https://www.spilglobal.com/Files/reports/2286/110英文年報-EN.pdf
SPIL単独の2022年以降の利益・設備投資・事業別内訳未確定/将来公表されていない。親会社もSPIL分を別掲していないhttps://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1122411/000119312526135585/d50802d20f.htm
SPILの世界シェア、先端パッケージの生産能力、顧客の実名未確定/将来一次情報が存在しない。年次報告書でも顧客はA・B・Cの記号表記のみhttps://www.spilglobal.com/Files/reports/2286/110英文年報-EN.pdf
従業員「約32,000人」の基準時点未確定/将来公式サイトに時点の記載がない。2021年末の23,045人との差は確認できないhttps://www.spilglobal.com/About/Overview
SPILとTSMCの個別の提携関係未確定/将来確認できず。ASEの20-Fが記載する提携はASE Inc.とTSMCの間のものhttps://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1122411/000119312526135585/d50802d20f.htm
今後の存在感に関する見通し(第10節「見通し」)、非上場化による見えにくさに関する読み未確定/将来本稿による解釈。事実欄の6項目から導出https://www.spilglobal.com/About/Overview

最終更新:2026年9月21日/Troy Technical
本稿の数値はすべてSPILが公表した年次報告書・月次売上公表・公式サイトの記載、親会社ASE Technology Holdingが米国証券取引委員会(SEC)に提出した法定開示書類、およびSPIL自身の過去のSEC提出書類に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。