TECHNOLOGY EXPLAINER
フリップチップとは何か
― チップを裏返しただけで、何が変わったのか
チップの表を上に向けて置き、縁から細い線を出す。それがワイヤボンドでした。 フリップチップは、チップを裏返して、面で基板に押しつけます。 やっていることは単純ですが、これによって配線の長さが10分の1以下になり、 熱の出口が反対側へ移り、材料の要求が総取り替えになりました。
- フリップチップとは何か(3行でつかむ)
- 何が変わったのか ― 0.1 mm と 1〜5 mm
- パッケージの形は3通りある
- 素材技術者の視点①:Ni層を1枚抜くと、ピッチが詰まる
- 素材技術者の視点②:裏返すと、熱の出口が反対側になる
- 課題
- 用語集/参考資料/出典対応表
事実=各社の公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画であり、実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。
1. フリップチップとは何か(3行でつかむ)
フリップチップとは、「チップを裏返して(flip)、回路のある面を下に向け、基板に直接押しつける実装方式」です。
- ワイヤボンド:回路面を上に向けて置き、縁の電極から細い線を基板へ渡す
- フリップチップ:回路面を下に向け、面に並べたバンプで基板とつなぐ
- 何が要るか:チップ側にバンプ(「バンプ」編)、接合(「ボンディング」編)、隙間を埋める樹脂(「アンダーフィル」編)
Amkorは、フリップチップ・イン・パッケージ(FCiP)技術を1999年から提供していると記しています事実。
2. 何が変わったのか ― 0.1 mm と 1〜5 mm
Amkorは、フリップチップの利点を説明するなかで、決定的な数字を挙げています。 接続の長さが「much shorter in length (0.1 mm vs. 1–5 mm)」になる、というものです事実。
Amkorの値から、接続長の比を求めます本稿の計算。
- ワイヤ 1 mm に対して 0.1 mm なら 10分の1
- ワイヤ 5 mm に対して 0.1 mm なら 50分の1
電源ノイズは V = L × di/dt で表されます。 Lが10〜50分の1になれば、同じ電流変化に対するノイズも同じオーダーで小さくなります。
前提:インダクタンスが長さに比例するとした単純化です。 実際には導体の断面形状、隣接配線、リターン電流の経路によって変わります。
Amkorはさらに、同じページで次の利点を挙げています事実。
- 「power can be brought directly into the core of the die」(電源をダイの中心部へ直接入れられる)
- 「entire surface of the die can be used for interconnect」(ダイの表面全体を接続に使える)
- 「die to package edge requirements…can be reduced」(ダイからパッケージ端までの余白を減らせる)
- 「size of the die can be reduced」(ダイそのものを小さくできる)
4つのうち、材料の観点でいちばん重いのは「電源をダイの中心部へ直接入れられる」です事実。
ワイヤボンドでは、電源も縁から入ります。ダイの中心まで届けるには、チップ内部の配線を長く引き回すしかない。 その間に電圧は落ち、発熱します。 フリップチップなら、中心の真上にバンプを置いて真下から差し込める。
これはチップ設計と実装の境界が動いたということでもあります。 「チップレット」編や「インターポーザ」編で扱った電源供給の話は、 フリップチップという前提があって初めて成立します(本記事による解説)。
3. パッケージの形は3通りある
裏返して載せたあと、その上をどうするかで製品の形が分かれます。 新光電気工業の製品ラインから、代表的な3つを見ます。
用途はそれぞれ違います。ベアダイはモバイル用アプリケーションプロセッサー、画像処理プロセッサー、高速通信用パッケージ(アンテナ)など事実。 ヒートスプレッダー付きは車載カーナビ用プロセッサー、画像処理プロセッサー、SSDコントローラーIC、サーバー向けプロセッサーなどです事実。
4. 素材技術者の視点①:Ni層を1枚抜くと、ピッチが詰まる
フリップチップの微細化は、バンプのピッチをどこまで詰められるかで決まります。 Amkorの公表値では、fcCSPで「Bump pitches down to 50 µm in-line and 30/60 µm staggered」事実、 銅ピラーでは「down to 30 μm in-line and 30/60 μm staggered」です事実。
新光電気工業は、次世代向けとしてピッチ30μm、パッド径20μmのバンプ構造を開発したとしています事実。 そして、そこで採られた手が興味深い。
「バンプ」編で見たとおり、Niははんだと銅のあいだに挟む「止める層」でした。 Snが銅を食い進むのを防ぐ。だからNiは、入れるべき理由のある層です。
ところが新光電気工業は、そのNiを抜く方向を選びました。 理由は横方向の寸法です。めっきは厚みぶん横にも成長するので、 層を重ねるほど、隣のバンプとの距離が食われていく。
ここで起きているのは、材料設計の方向転換です。
- これまで:足りない機能を、層を足して補う
- 微細化の先:層を減らしても成立する組み合わせを探す
同社が「良好なめっき析出性と実装信頼性が得られ」と書いているのは、 Niを抜いても大丈夫だと確かめたという意味です事実。 「ボンディング」編で見たフラックスレス化と同じで、 微細化は「使える材料を増やす」のではなく「使わなくて済む材料を探す」方向にも働いています(本記事による解説)。
5. 素材技術者の視点②:裏返すと、熱の出口が反対側になる
ワイヤボンドでは、チップの回路面が上を向いています。 つまり発熱する面が、上を向いて樹脂に覆われている。 熱は下の基板へ逃がすしかありません。
フリップチップでは逆です。回路面が下、シリコンの裏面が上を向きます。 新光電気工業のヒートスプレッダー付きパッケージは、 「ICチップ裏面からTIM(Thermal Interface Material)を介してヒートスプレッダー(放熱版)に直接熱を逃がす」構造だと説明されています事実。
フリップチップにすると、シリコンの裏面がむき出しで上を向きます。 シリコンは熱をよく通す材料です。だから、その上に金属の蓋を載せれば熱は抜ける——はずです。
ところが実際には、シリコンと金属を重ねただけでは熱は通りません。 どちらの面も顕微鏡で見れば凸凹で、触れているのは点だけ。 あいだには空気が残り、空気は断熱材です。
そこを埋めるのがTIM(Thermal Interface Material)です。 接着が目的ではなく、隙間から空気を追い出すことが目的の材料—— 「テスト」編で見たプローブ針の接触や、「ボンディング」編で見た凸凹をつぶす荷重と、 発想はまったく同じです。界面をどう作るかという問題が、熱の世界にも現れます(本記事による解説)。
なお新光電気工業は、ヒートスプレッダーに自社リードフレームを採用し、 ICチップ周囲をモールド樹脂充填構造とすることで 「薄基板を用いながら低反り化を実現」しているとしています事実。 放熱の蓋が、同時に反りを抑える構造材にもなっているわけです(本記事による解説)。
6. 課題
(1) 裏返した瞬間、中が見えなくなる
ワイヤボンドなら、接合部は上から見えます。ワイヤが1本外れていれば分かる。 フリップチップでは、接合部はチップの下に隠れます。 目視では確認できず、X線や電気的な測定に頼ることになります(本記事による解説)。
そして「アンダーフィル」編で見たとおり、その隙間には樹脂が充填されます。 未充填やボイドがあっても、外からは見えません。
(2) 薄くすると、扱えなくなる
新光電気工業のベアダイ製品は「70μm以下に薄化したICチップ実装が可能」とされ、 それによって「パッケージのスタック構造(PoP:Package on Package)が可能」になると説明されています事実。
薄いほど積めます。しかし薄いほど割れやすく、反りやすい。 ——この問題は「スタッキング」編で扱った薄化の課題とそのままつながります。
(3) ピッチを詰めると、材料の選択肢が減る
第4章で見たとおり、ピッチ30μmの世界ではNi層1枚が邪魔になります事実。 「バンプ」編で扱った金属間化合物の占積率も、同じ方向の制約です。 細かくするほど、使える層が減り、許される厚みが減っていく(本記事による解説)。
フリップチップは「チップを裏返す」という一手です。しかしその一手で、次のすべてが変わりました。
- 電気:接続長が 1〜5 mm から 0.1 mm へ。電源をダイの中心へ直接入れられる
- 端子:縁だけでなく面全体を使える(「バンプ」編)
- 熱:出口が基板側から、上を向いた裏面へ移った。だからTIMが要る
- 材料:バンプ、UBM、アンダーフィル、封止材、TIM——すべて新しい材料カテゴリ
本シリーズで扱ってきた後工程材料の多くは、フリップチップという前提の上に成立しています。 裏返すという判断が、材料産業の地図を書き換えた——そう言っても大げさではありません(本記事による解説)。
7. 用語集
- フリップチップ
- チップを裏返し、回路面を下に向けて基板と直接つなぐ実装方式。
- ワイヤボンド
- 回路面を上に向け、縁の電極から金属細線で基板へつなぐ方式。
- FCiP
- Flip Chip in Package。フリップチップをパッケージに組み込んだ形態。
- fcCSP
- Flip Chip Chip Scale Package。チップとほぼ同じ大きさのフリップチップパッケージ。
- FC-BGA
- フリップチップ実装でボールグリッドアレイの外部端子を持つパッケージ。
- バンプ
- チップ側に作る接続用の突起(「バンプ」編で詳述)。
- 一列配置(in-line)
- バンプを格子状に一列で並べる配置。
- 千鳥配置(staggered)
- 互い違いにずらして並べ、実効的な間隔を稼ぐ配置。
- アンダーフィル
- チップと基板の隙間を埋める樹脂(「アンダーフィル」編で詳述)。
- ヒートスプレッダー
- パッケージ上面に取り付け、熱を広げて逃がす金属の蓋。
- TIM
- Thermal Interface Material。部材どうしの隙間を埋めて熱を通しやすくする材料。
- PoP
- Package on Package。パッケージの上にパッケージを重ねる構造。
- インダクタンス
- 電流の変化に逆らう性質。配線が長いほど大きくなる。
- 無電解めっき
- 外部電源を使わずに金属を析出させるめっき。
- リードフレーム
- 金属の枠。ここではヒートスプレッダーの素材として使われている。
8. 参考資料(一次情報)
- Amkor「Flip Chip Packaging」 — amkor.com
- Amkor「fcCSP(Flip Chip CSP)」 — amkor.com
- 新光電気工業「狭ピッチフリップチップバンプ技術」 — shinko.co.jp
- 新光電気工業「ヒートスプレッダー付きフリップチップパッケージ」 — shinko.co.jp
- 新光電気工業「ベアダイフリップチップパッケージ」 — shinko.co.jp
- 新光電気工業「モールドアンダーフィルパッケージ」 — shinko.co.jp
- Amkor「Copper Pillar(Cu Pillar)」 — amkor.com
9. 主張と出典の対応表(監査)
| 本文の主張 | 根拠 | 区分 |
|---|---|---|
| Flip Chip in Package(FCiP)技術を1999年から提供していること。接続の長さが「much shorter in length (0.1 mm vs. 1–5 mm)」であること。「power can be brought directly into the core of the die」「entire surface of the die can be used for interconnect」「die to package edge requirements…can be reduced」「size of the die can be reduced」 | Amkor「Flip Chip Packaging」[参考資料 1]https://amkor.com/technology/flip-chip/ | 事実 |
| fcCSPが「Bump pitches down to 50 µm in-line and 30/60 µm staggered」であること。「partners with all of our available bumping options (Copper Pillar, Pb-free solder, Eutectic)」であること。「Accommodates package sizes from 1×1 mm² to 25×25 mm²」であること | Amkor「fcCSP」[参考資料 2]https://amkor.com/packaging/laminate/fccsp/ | 事実 |
| 次世代向けにピッチ30μm・パッド径20μmのバンプ構造を開発したこと。Ni/Pd/Auめっきプロセスを用いていること。「Cuバンプ上に直接無電解Pd/Auめっきを行うことにより、良好なめっき析出性と実装信頼性が得られ、従来の構造に比べてNi層が無いために狭ピッチ化の実現が可能です」 | 新光電気工業「狭ピッチフリップチップバンプ技術」[参考資料 3]https://www.shinko.co.jp/rd/rd/ay/fc-bump.php | 事実 |
| 「ICチップ裏面からTIM(Thermal Interface Material)を介してヒートスプレッダー(放熱版)に直接熱を逃がす」構造であること。「ヒートスプレッダーとして自社リードフレームを採用」していること。「ICチップ周囲をモールド樹脂充填構造」により「薄基板を用いながら低反り化を実現」すること。「4~6層 200μmコア基板等にも対応可」であること。用途が車載カーナビ用プロセッサー、画像処理プロセッサー、SSDコントローラーIC、サーバー向けプロセッサーなどであること | 新光電気工業「ヒートスプレッダー付きフリップチップパッケージ」[参考資料 4]https://www.shinko.co.jp/product/package/assembly/hs-fc.php | 事実 |
| ベアダイフリップチップパッケージが「有機基板上にICチップをフリップチップ実装し、接続部をアンダーフィル樹脂で封止した半導体パッケージ」であること。「70μm以下に薄化したICチップ実装が可能」「45μm以下の狭ICパッドピッチ接続に対応」であること。「薄く研削したICチップを実装することにより、パッケージのスタック構造(PoP:Package on Package)が可能」であること。用途がモバイル用アプリケーションプロセッサー、画像処理プロセッサー、高速通信用パッケージ(アンテナ)などであること | 新光電気工業「ベアダイフリップチップパッケージ」[参考資料 5]https://www.shinko.co.jp/product/package/assembly/bare-die.php | 事実 |
| MUFが封止と隙間充填を1工程で行い、「液状アンダーフィルを用いた場合の樹脂塗布エリアが不要となるため、パッケージ面積の縮小が可能」であること。はんだバンプ・Cuピラーいずれにも対応すること | 新光電気工業「モールドアンダーフィルパッケージ」[参考資料 6]https://www.shinko.co.jp/product/package/assembly/muf.php | 事実 |
| 銅ピラーが「Fine pitch capable down to 30 μm in-line and 30/60 μm staggered」であること | Amkor「Copper Pillar」[参考資料 7]https://amkor.com/technology/copper-pillar/ | 事実 |
| 接続長の比(1 mm に対して10分の1、5 mm に対して50分の1)、およびインダクタンスと電源ノイズ(V=L×di/dt)が同じオーダーで小さくなるという計算 | 本稿の計算。インダクタンスが長さに比例するとした単純化であり、断面形状・隣接配線・リターン経路の影響を含まない。前提となる長さは参考資料1[参考資料 1]https://amkor.com/technology/flip-chip/ | 本稿の計算 |
| 図6で並べた値のうち、一列配置(in-line)と千鳥配置(staggered)は測り方が異なり直接比較できないこと | 本記事による注記。数値自体の出典は参考資料1・2・3・7 | 解説 |
| ワイヤボンドでは熱を基板側へ逃がすしかないという整理。図8の矢印で示した熱の向き。シリコンと金属を重ねただけでは界面に空気が残り熱が通らないという説明、およびTIMが「接着ではなく空気を追い出すための材料」であるという読み取り。放熱の蓋が同時に反りを抑える構造材になっているという指摘。Ni層が横方向の寸法に効くという図5の描き方。「層を足す」から「層を減らす」への方向転換という整理。裏返すと接合部が見えなくなるという指摘。本シリーズの後工程材料の多くがフリップチップという前提の上に成立しているという整理 | 公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各社が表明した見解ではない | 解説 |
| 図1・図4・図5・図8の断面図が、実際の観察像ではなく説明のための作図であること | 本記事による注記 | 解説 |
最終更新:2026年9月20日/出典は一次情報(パッケージメーカーの公式技術ページ・製品ページ)に限定しています。 構造の整理や材料設計上の読み取りを含むため、それらは「解説」として出典付きの事実と区別しています。 図はすべて説明用の概念図です。図1・図2・図4・図5・図6・図8はベクター作図、それ以外はAI生成イメージであり、いずれも実際の断面写真・顕微鏡像・製品の実物を示すものではありません。