主要成果
従来の紫外線(UV)照射に依存する光異性化ベースの液晶エラストマー(LCE)アクチュエータは、その光毒性や生体組織透過性の低さから生物医学的応用が制限されていました。この研究では、この課題を克服するために、808 nmの近赤外(NIR)光によって駆動される画期的な光異性化アクチュエータが開発されました。この新しいシステムは、NIRでアドレス可能なソフトアクチュエータプラットフォームとして、生物医学分野における新たな応用の道を開くものです。
技術・臨床詳細
開発されたNIR光駆動アクチュエータは、アゾベンゼン架橋LCEと、特定の組成を持つアップコンバージョンナノ粒子(CSS-UCNPs)を巧妙に統合することで実現されています。CSS-UCNPsは、808 nmのNIR光を吸収し、それをUV/青色領域の光に変換する特性を持っています。このアップコンバージョン発光が、アゾベンゼン分子の光異性化を誘発し、その結果としてLCEフィルムの巨視的な形状変化(曲げ)を引き起こします。従来のUV光を使用した場合と比較して、NIR光は生体組織に対する透過性が高く、光毒性が低いという利点があります。これにより、体内埋め込み型デバイスや、生体組織と直接接触するソフトロボット、細胞操作デバイスなど、これまでのLCEアクチュエータでは難しかった生物医学的応用が可能になります。
背景・業界文脈
ソフトロボティクスやスマート医療デバイスの分野では、外部刺激に応答して精密な動きを制御できるアクチュエータの開発が活発に進められています。LCEは、光、熱、電場などの外部刺激に応答して可逆的に大きな変形を示すことができるため、理想的なソフトアクチュエータ材料として注目されてきました。しかし、生体適合性や組織透過性の問題から、生体内での応用には大きな障壁がありました。NIR光は、生体組織への深達度が高く、生体への影響が少ない「診断の窓(therapeutic window)」として知られているため、NIR光で制御可能なアクチュエータの開発は、この分野における長年の課題でした。
今後の展望
このNIR光駆動LCEアクチュエータは、医療診断、治療、バイオセンシング、そしてソフトロボティクスなど、幅広い生物医学的応用において大きな可能性を秘めています。例えば、体内で標的部位に到達し、NIR光によって活性化されて薬物を放出するスマートドラッグデリバリーシステムや、体内を移動して最小限の侵襲で操作を行うマイクロロボットの開発に貢献する可能性があります。研究チームは、この技術のさらなる最適化と、より複雑な動きを制御できるアクチュエータ設計の研究を進めることで、将来的には診断から治療までを網羅する次世代のスマート医療デバイスの実現を目指しています。このブレークスルーは、ソフトアクチュエータ技術を生体環境へと拡張する上で非常に重要な一歩となります。
元記事: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsami.6c07815
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